UV-WARS
第一部「重音テト」
第一章「耳のあるロボットの歌」
その3「コヨvsタイプC」
目標地点まであと5000に近づいた。
目標のバリヤ発生装置は高さ10メートルの岩にカモフラージュされた建造物だった。
「索敵完了。数、108。タイプA、66。タイプB、41。タイプC、1」
「さすがに多いな」
「タイプCって、大砲持ったスナイパーのこと?」
「AやBに時間をとられていると、Cに撃たれるってことスカ」
「作戦スタートまであと1時間デスネ」
「小隊長はん、何かあるんですか?」
小隊長は少し考えこむようなしぐさをしてから、空を見上げた。
「援軍だ」
「援軍?」
「援軍!」
「援軍が、来る?」
全員が天を仰いだ。
空は黒い雲にふさがれ、星の光も見えなかった。視線は自然に目標地点に戻った。
目標の頂上にタイプCが仁王立ちに立って、建造物の周りを敵兵が幾重にも取り囲んでいた。
その頭上は未だに厚い雲が垂れ籠め、夜明けはまだ先に思われた。
「来た」
小隊長の声から半拍おいて、雲の中から光が差し込んだ。
同時にタイプCが右手を空にかざした。
かざした手のひらのすぐ上に閃光が現れた。
頭上からのビーム攻撃をタイプCはバリヤで防いだ。一発。二発。三発目からは、シャワーのように降り注いだ。
空からのビーム攻撃は効果がないように思われた。
ゆっくりとタイプCが両手を左右に広げた。まさにその時、左右から飛び込んできた巡航ミサイルが、見えない壁にぶつかって、くの字に折れ曲がった。続いてミサイルは爆発した。
しかし、ミサイルはそれで終わりではなかった。次々に襲いかかるミサイルをバリヤで防ぎながら、タイプCは天を仰いだ。
「今までのは囮。本番は、質量兵器というわけだ」
小隊長の声をどこか遠くでテトは聞いていた。
それに呼応するように、タイプBが2体、タイプCの両肩に乗った。
タイプBのかざした盾に光の玉が降ってきた。凄まじい衝突の音で空気が震えた。
タイプBは2体ともゆっくりと、頭から溶けるように潰れていった。
タイプCが両手を空に向けると、周りにいたタイプBは盾になるべく飛び出して横からのミサイルの前に立ち塞がった。
タイプBの持つ歩兵用の盾でミサイルを防ぐことは無謀と言えた。実際、盾にミサイルが当たって無事にすんでも、次には盾が使い物にはならなくなっていた。二発目のミサイルは体と引き換えだった。
それはタイプCに敵と戦う数秒間を与えるためだけの作業だった。
タイプCの頭上で2体のタイプBが爆発した後、光の玉が人の形に変化していった。
「コヨ!」
光の中から現れたオレンジ色のワンピースを着た少女を見て、リツが叫んだ。
リツは体内に重力制御機構を備え、自分の体重をゼロから25トンまで調節できるだけでなく、重力の向きもコントロールできた。
コヨは骨格から筋肉に至るまで比重の高い金属でできていて乾燥重量がすでに54トンだった。そのコヨを高空から落下させて質量兵器とする戦法は最近よく用いられた。
コヨはタイプCの頭上でバリヤの上に乗ってかがみこんだ。タイプCの顔を覗きこむように顔を突き出して、コヨがニヤリと笑うのがわかった。
タイプCが腰にぶら下げていたバズーカ砲を右手でつかんだ。
コヨは両手をバリヤに突き刺し、布を引き裂くようにバリヤをこじ開けた。
タイプCができた裂け目にバズーカ砲を突っ込んだ。
コヨは信じられないほど大きな口を開け、バズーカ砲に噛み付いた。
タイプCが引き金を引く前に、バズーカ砲は噛み千切られた。
タイプCは構わず引き金を引いて、バズーカ砲をバリヤの外側に押し出した。
コヨの腹の下でバズーカ砲が破裂した。青白い火柱が立ち上ぼり、コヨの体を包んだ。
火柱の中に黒い影が浮かび、上昇した。
〔やられた、コヨが!?〕
全員が息を飲んだ。
タイプCは悠然と辺りを見回した。
その頭上の火柱が次第に小さくなって、戦いが終わりかけていた、まさにその時、火柱から黒い影が飛び出した。
タイプCが見上げたとき黒い影はバリヤを突き破って目の前にあった。
遠目にも黒い影の頭の真ん中に赤く光る目が見えた。
黒い影は口を大きく開け、タイプCの頭をまるごと呑み込んだ。
黒い影がゆっくりと落ち始めた。その下半身はなくなっていた。
頭を食いちぎられたタイプCはバリヤを支えていた手を放り出すように、だらりと落とした。
黒い影は、発生装置の頂上に落ち、ゴロゴロと音を立てて転がり落ちた。タイプCが仰向けに倒れるのと同時だった。
〔やったか!?〕
テトが体を浮かせると、小隊長がそれを制した。
「待て」
生き残ったタイプAとBが、黒焦げになったコヨの上半身の周りに集まり始めた。
一体のタイプAが持っていたライフルの銃把で、黒焦げの固まりを砕き始めた。
タイプCの仇などという感情的な理由でないことはすぐにわかった。
タイプAは、コヨが噛みちぎったタイプCの頭を黒焦げの固まりの中から取り出した。
〔修理する気!?〕
「タイプCに復活されると面倒だ。突っ込むぞ。モモ!」
「残りは、Bが2、Aが10!」
「リツ、Gネットは?」
「有効射程まであと2500、2400!」
「ルナ、Cの本体を狙え」
「オーケー、ボス」
ルナはすかさず九連装ミサイルランチャーを構え、放った。
そのミサイルをタイプAが一体ずつ盾になって防いだ。
「拡張キット…」
小隊長の呟きをモモは聴き逃さなかった。
「エクステ?」
「開発が間に合っていればな」
「それは…」
「今言ってもしょうがない、か」
「ウタさん、弱気になっちゃダメですよ。残り、Aが1、Bが2。テトさんとマコさんが間に合いそうです」
小隊長は無言で頷いた。
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