10-3.
[ごめんね。本当は、電話で話すべきじゃないってわかってるんだけど――時間がなくて]
「そんな……そんなこと」
懐かしいその人の声音に、愛が隣りにいるってわかってても泣き出しそうになった。
[俺……もう、大学にはいないんだ。退学届も出して、あのアパートも引き払った。今は大分の実家で旅館の手伝いをしてる。親父が死んで、俺が後を継がなきゃいけないから、色々と覚えなきゃいけないことも多いらしい]
「そう、ですか」
海斗さんはまた[ごめん]とつぶやく。
ショックじゃなかったと言えば、嘘になる。だって、大分なんて。九州にだって行ったことないのに、海斗さんはもうそんなに遠いところにいる。
[学校で未来に会えなくて、本当に焦ったよ。たまたま愛ちゃんに会えたからまだよかったけれど、まさか学校に来てないとは思ってなかったから]
「ごめんなさい」
私の言葉に隣に座る愛がムッとしたけど、でも、言わずにはいられなかった。だってそれは、パパとあんな言い合いをしなかったら、海斗さんに会うチャンスがあったってことだ。さよならだけでも言うチャンスがあったってことだ。なのに、私はその場の感情に任せて、一番大事なチャンスを棒にふっていた。
「頑張って――下さい」
ポツリとつぶやくようにそれだけ言う。もう会えないその人に、これ以上わがままを言ってしまわないように。
[ねぇ……未来?]
声のトーンを落として、どこか弱気にも感じられる声で海斗さんが尋ねてくる。
「なん、ですか?」
[俺は……俺は、もうここを離れられない。背負わなきゃいけないものができたから。だから……]
「……?」
[だから、ここで待ってても、いいかな? いつか、未来が来てくれるのを……さ]
「……!」
[ダメ……かな、やっぱり]
海斗さんらしくない不安そうな、消え入りそうな声が私の耳を打つ。
とたんに涙があふれた。
隣りに座る愛が、もう一度私を抱き締めてくれる。
私は……バカだ。
私は、なんにも変わってない。
海斗さんの言葉を勝手に自己解釈して、もう無理なんだって決め付けて、勝手に独りであきらめて。
海斗さんは、私と違って全然あきらめてなかった。海斗さんの言う通りだ。海斗さんがこっちにいられなくなった? なら、そうよ。私が行けばいい。それだけのことでしょ? それなのに、私は。
[……未来?]
「行く! 行きます! 絶対に――行きます。行かせてください……」
涙声になっちゃって、最後の方はちゃんと言えたかどうかもよくわからなかった。
[そっか……そっか。よかった。未来、ありがとう]
思わず、海斗さんには見えないってわかってるのに首をぶんぶんと横に振る。
ありがとうって言わなきゃいけないのは私の方だ。でも、言えなかった。海斗さんの言葉が嬉しすぎて、私は何も言うことなんてできなかった。
[未来、愛してる]
「私もです……私も、愛してます」
言ってから、愛が隣りにいたことを思い出す。急に恥ずかしくなったけど、愛はなんにも言わなかった。茶化したりしないで抱き締めてくれる、その優しさが嬉しかった。
[あ、そうだ。いい忘れるところだった]
ホッとしたのか、海斗さんの声のトーンが明るくなる。
「なんですか?」
[今、未来が持ってるケータイ、この前俺が買ったやつなんだ。離れてる間、連絡とれるものがないと困ると思って]
「そんな……でも」
[持っててくれるんだよね?]
――わがままだって言わなきゃ。
そう言ってくれた親友を思わず見る。
愛は、ニッコリと笑ってくれた。
「未来。素直になりなさい」
私は涙を流しながらうなずいて、海斗さんに告げた。
ロミオとシンデレラ 42 ※2次創作
第四十二話。
次回、最終話です。
ようやく、3パターン書いた最終話をどれにするか決めました。
一週間以上も悩みに悩んだわけですが、まだ他のパターンのものにも未練があるような感じです。
今まで何度となく「ごめんなさい」と言い続けましたが、最期は「ありがとうございました」と言おうと思います。
次回、こうご期待!(と言うのも、内心恥ずかしい)
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それが無知故か賢者が故かすら
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ふみふみ
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