第4章 ハイテクが野球を面白くする
第1節 誤審は興醒めだ
平成8年のペナントレースの終盤で、アンチ巨人の帝王・星野中日は巨人に破れ去った。試合終了後、執念深い星野監督はダッグアウト裏で球審を待ち構え、
「(ストライク・ボールの判定を)公平にやれ!」
と蹴りを入れた。こうしたボール、ストライクの微妙な判定が、どうも球界の盟主・巨人に有利になされているようだという噂は、昔からあった。
古くは川上巨人軍の9連覇(1965年~1973年)当時、長嶋ボール、王ボールということが公然と言われた時期がある。王・長嶋のハーフ・スイングはほとんどボールとコールされ、きわどいコースはだいたいボールとコールされた。そうした球審の協力があって長嶋のチャンスに強いパフォーマンスや王の空前絶後のホームラン量産があったといっても過言ではない。当時の長嶋のハーフ・スイングは現在であれば、間違いなくストライクと判定されていただろう。ハーフ・スイングしたあとの、長嶋の「振っていない」というオーバー・ジェスチャーは、それ自体が観客を意識した演技でもあった。
しかし当時、週刊誌に取り上げられるほど問題化したことはなかった。それは「長嶋が見逃したのだから」、あるいは「王が見逃したのだからボールのはずだ」、という多くのファンの願いが球審に乗り移ったと思われるからだ。プロ野球はファンあってのものであり、多くのファンが王や長嶋の見逃し三振を見たくないのであれば、ボールともストライクともとれる投球はボールで良いというのがファンの判定であった。審判だって、ファンあっての審判だ。読売テレビで養殖された巨人ファンが急増する背景の下、判定はつねに巨人に対して若干有利な傾向が見られた。しかし、巨人ファン自身は、自らの願望が叶うのであるから、それを巨人に対して有利な判定だという認識はなかった。しかし、
「巨人と戦うときは9人プラス4人(の審判)を相手にしなければならない」
と公言して憚らなかった、ぼやきの野村監督や巨人戦の球審に試合後に蹴りを入れた星野監督ならずとも明らかなストライクをボールと判定されたり、誰が見てもボールのコースをストライクと判定されれば、怒りがこみ上げてくるのは当然である。さらに、ハーフ・スイングのたびにキャッチャーが右バッターなら1塁、左バッターなら3塁の塁審に判定を仰ぐが、塁審の判定が優先されるとはいえ、こうしたキャッチャーの行為は球審の威厳を損なうものである。その上、塁審の判定に唯々諾々と従う球審の姿勢も審判への信頼感を削ぐものである。
また、ファンとしても贔屓チームが勝ったとしても、明らかに勝敗を分ける判定があった後味の悪い勝ち方では、試合後もあまり嬉しくないものであるし、そのたびに抗議が行われ、いたずらに試合がだらだらと長引くことは、不愉快である。ファンを無視した審判の判定を巡るゲームの中断はあとをたたない。
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