Waltz
王冠
夢の国、というには些か不気味だった。空は赤く水は墨のように黒く、大地はピン色だった。そんな中を全く気にせずに歩くのは緑色の長いツインテールの少女-ミクだった。
「ステキなことがあるといいな。」
ミクは鼻歌を歌い、時には口笛を吹きながら陽気に夢の国を進んでいた。
しばらく歩いて赤く染まっている森の入り口に到着した。そこには何かの腐敗臭と血の臭いが漂う不気味な森だった。その中に一本だけ緑色のままの木があった。その木の枝にはピンク色の猫耳としっぽをつけた女性が座り込んでいる。
「君はだぁれ?」
「ルカっていうの。よろしくね。」
素っ気なく言う。それからルカは
「ここは危険なの、悪いことは言わないから早く別のところに行くといいわよ。」
“よく分からない人だけど言うとおりにした方がいいかな。”
ミクはそう思ってルカに一礼すると来た道を戻った。
「大丈夫…だといいなぁ。」
ルカはミクに向かって言った。
次に来たところは赤い大きな城があった。興味本位でミクは城の中へ入った。入った先には和服の男がいた。
「お帰りなさい、赤の女王様。」
出迎えの執事なのだろう、和服の男はそういった。
「わぁ、うれしい!」
素直に喜ぶミクに水を差すような言葉が響き渡る
『早くそこからでて。』
ミクにとっては聞いたことのない声が響く。
「どうして?」
そう問いかけるミクをよそ目に執事は苦い顔をする。
『とにかく逃げて、“あたし”に囚われない内に。』
「そんなことはないでござるよ。」
執事は声を遮るように言った。
「ほんとに?」
ミクは執事に問いかける。執事は笑顔でこう言う。
「ええ、本当に。あの声はここに来るよう嘘を言っているのでござるよ。」
『ち、違う!!』
泣きそうな声の主。ミクはどうしたらいいのか分からなくなっていた。執事の男はミクの手を引いた。
「あ、あのぅ…。」
無理矢理手を引かれ戸惑うミクに執事の男は何も言わず歩いて行く。ズンズン通っていく城の中はよく見ればハートのマークがあちらこちらに散りばめられていた。
「ここがミク様の部屋でござるよ。」
「ありがとう!」
途端に笑顔で答えるミク。それから数秒間が空いて
「でもどうしてあたしの名前知っているの?」
「他の者から聞いたのでござる。」
礼儀正しく答える執事。
「あと拙者の名を答えておきましょう。がくぽと申します。」
執事―がくぽがそう答える。それからミクはがくぽに一通り夢の国についての話を聞いた。そして、彼女は命令を下した。
「あたいは誰一人助けられないのかなぁ…。」
赤い髪のカールをかけた女性はレンカの病室の前で苦悩していた。
「そんなことないですよ。」
隣にいるハクが慰めるように言う。
「現にテト院長はりっちゃんを助けたじゃないですか。」
りっちゃん。それは足を痛めていた波音リツのあだ名だ。今はもう退院してはいるが。
「そうだけど…。」
テトが何か言いかけたと同時に強く扉を叩く音がする。
「あ、少し行ってきますね。」
ハクはレンカの病室へと入る。
「うん、行ってらっしゃい。」
数日前から情緒不安定にしても妄想癖にしてもレンカはおかしかった。所謂悪魔憑きという類のモノだろうか。
この前なんか庭にいたレンカを目撃したルコが言っていた。様子がおかしいと。
あの子は時々気分転換にと庭へ出る。たしかあの日はメイコという義理の親が見舞いに来ていたはずだ。…同じく義理の親であるカイトの時も。あの後何かがおかしかった。
テトが考え事をしている内にハクが病室から出てきた。
「どうだった?」
首を横に振る。
「駄目でした。…やっぱりわたしの声も聞こえてないみたいです……。」
「そっか。…今日はもう休みな。疲れたでしょ?」
「はい……。」
いつもよりこの病院の空気は何より重たかった。
病室の方から歌声が響く。
三番目アリスは幼い子、きれいな姿で不思議の国
いろんな人を惑わせておかしな国を造り上げた
そんなアリスは国の女王、歪な夢に取り憑かれて
朽ちゆく体に怯えながら国の頂点に君臨する
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