(照明暗く 右手上方から光が差す 狐、犬、かかし、鶏、テーブルの傍で適当にくつろぐ 魔女は光を見つめる カオル入場)

魔女「みんなのことはもう、わかってるよね」
カオル「うん」
魔女「出口も、見えてるよね」
カオル「うん」
魔女「質問」
カオル「うん」
魔女「戻る?戻らない?」
カオル「戻らないを選択すれば、私はきっと、ケイを死に追いやった罪悪感から、逃れられる。一生、みんなに暖かく迎えられて、笑い合いながら過ごせると思う。この、何もない、狭くて白い場所で」
魔女「そうだね。きっと、カオルを拒絶する人はいないよ。私以外は、皆カオルを否定できないから」
カオル「うん」
魔女「じゃあ・・、カオルはここにいる?」
カオル「・・・・それも、いいなって思う。・・でも、しなきゃ、いけないことがある、って思うんだ」
魔女「何を?」
カオル「・・謝る。私は、ケイに謝らなきゃいけない。たとえ、いつの時間に落ちたとしても」
魔女「もしかしたら、全てが始まるより以前の時間に落ちるかもしれないよ」
カオル「うん。それでも、謝りたい」
魔女「そう。じゃ、カオルは戻るのね」
カオル「うん」
魔女「質問」
カオル「え?・・まだ、何か、あるの?」
魔女「(包丁を柄をカオルの方に向けて差し出す 歩きながら台詞をいい、カオルに手渡す)ここを出る前に、カオルは私たちを殺すことが出来る。私を殺せば、両親に対する負い目は消える。かかしを殺せば傲慢が、狐を殺せば嘘吐きが、鶏を殺せば臆病が、犬を殺せば欲張りが、カオルから消える。」
カオル(受け取った包丁を見つめる)
魔女「カオルは、誰を、殺す?」
カオル「私、は」
カオル「(かかしの許へ近寄る)私は、」
かかし「俺を殺すのか」
カオル「・・・・・・。私は、かかしを殺さない」
かかし「いいのか?」
カオル「・・かかしははじめ、すごく怖かった。でも、鶏を、みんなを大事にしてるってわかって、すごく、嬉しかったから。私は、かかしを殺さない」(犬に近寄る)
犬「ワタクシを、殺すのですかな」
カオル「・・・・・・。私は、犬を殺さない」
犬「なぜ・・です」
カオル「犬は、はじめ、すごく変な人って思ったけど、犬の寂しさって、すごくわかるから。だから、私は犬を、大事に思う。だから、私は犬を殺さない」(鶏に近寄る)
鶏「私を、殺しますか」
カオル「・・・・・・。私は、鶏を殺さない」
鶏「後悔、しませんか」
カオル「鶏は、臆病すぎて、はじめはダメな人なのかなって思った。でも、誰よりもみんなのこと見て、誰よりもみんなのこと、考えてるのを知った。今は、少しだけそれが頼もしい。だから、私は鶏を殺さない」(狐に近寄る)
狐「やるなら、一思いにやれよ」(包丁を自分の胸に突きつける)
カオル「・・・・・・。私は、狐を殺さない」
狐「殺した方が、いいんじゃないのか」
カオル「狐は、嘘吐きだけど、本当はすごく不器用で、本当はすごく優しいくせに、自分を悪者にして誤魔化してるだけだって、気付いた。私は、狐を殺さない」(魔女に近寄る)
魔女「私を、殺すのね。正しいと思う。本当は、私が全ての原因だものね。あなたがそんな曖昧な人間になったのは、常にご両親から、周囲から否定されていたから。何をしても叱られるから、自分の意思で、自分の個性で、何かをすることが、怖くなってしまったのよね。だから、私のように常に正しいものに対して、コンプレックスがあった。私を殺せば、あなたは、普通の人に戻れるのかもしれない」
カオル「・・・・・・・・・・・・。私は、魔女を殺さない」
魔女「殺したほうが、きっとカオルのためだよ?」
カオル「正直、魔女の正しさは、鬱陶しいと思うこともあった。でも、魔女は間違ってない。そして、私は、そうやって、自分を疑いなく信じられる強さが、欲しい。だから、私は、魔女を殺さない」
魔女「・・迷いの多い、選択だね」
カオル「・・・・・・」
魔女「今なら、まだ間に合うよ。質問。カオルは誰を殺す?」
カオル「・・・・・・。うん。(包丁を魔女に返す)私は、誰も殺さない。私は、ここを出て行くけど、全員連れて行く。自分の弱さも、自分の瑕(きず)も、自分の蹉跌(さてつ)も、全部、持って行く」
かかし「強くなったな」(カオルの頭をなでる)
カオル「うん。きっと、これからも、強くなるよ」
鶏「それは、楽しみですね」
カオル「きっと、これからも、一杯躓くから。その度に、きっと悩んで、苦しんで、ずっと、強くなる」
狐「頼もしいじゃん」
犬「これでお別れと思うと、はなはだ残念でなりませんな」
魔女「そうだね。もう、会えなくなると思うと、寂しいけど、大丈夫だよ」
狐「何がだよ」
魔女「私たちは、ずっとカオルのそばにいる。違う?」
犬「それもそうですな。カオル嬢、ゆめゆめ忘れなさいませんように」
カオル「ありがとう。うん。絶対に忘れない。それじゃあ、もう、行くね」
鶏「お気をつけて」
狐「もう、戻ってくんなよ!」

(カオル、光に向かって歩く。舞台の端で立ち止まり、振り向く)

カオル「お世話になりました!!さようなら!!そして、これからも、よろしく!」

(カオル、走って光の見える方へ退場)
(暗転)

(魔女、鶏、かかし登場)

魔女「ホントだって!昨日この辺にすごいおっきい犬がいたの!」
かかし「だからって何で俺のかばんだけ水浸しになってんだよ」
鶏「一番、臭かった、とか?」
かかし「はあ?んなこと言ったらコイツの鞄のがくせーだろ!」
魔女「ちょっと!!どういう意味!?」
かかし「お前の持ちもの匂いでわかんだよ。全部香水くせーじゃねーか」
魔女「こういうのは臭いって言わないの!いい匂いじゃない!」

(カオル入場)

カオル(椅子に座る)
魔女・かかし・鶏(カオルが座るまで静かにみる)
鶏「なんで、あの人がここにいんの?」
魔女「知らない」
かかし「なあ、いこうぜ?」
(魔女、鶏、頷いて3人立って退場しようとする ケイ入場)
ケイ「あれえ?何してるのお?」
かかし「おう、ケイ」
ケイ「あ、鞄変えたんだねえ」
かかし「兄貴のお下がり。昨日鞄消えたと思ったら水浸しで出てきて、今つかえねーの」
ケイ「そっかあぁ。それは災難だったねえ」
魔女「臭いから犬にやられたんだよ」
ケイ「くすくす。ほんとにい?」
鶏「マジマジ」
ケイ「あれえ?」(カオルに気付く)
ケイ「珍しいねえ。何してるのお?」(カオルに近寄る)
カオル「こ・・こんにちは」
ケイ「・・。こんにちは」
カオル「ケ・・フジノさんに、言いたいことがあって、待ってたんだ」
ケイ「私にい?なあにい?」
カオル「理由は、聞かないで欲しいんだけど、謝らせて欲しい」
ケイ「えええ?なあにい?私に何かしたのお?」
カオル「ごめん。理由は、聞かないで」
ケイ「・・・うん。わかったあ」
カオル「ごめんなさい」
ケイ「くすくす。なんかあ、変な感じだねえ」
カオル「そう・・かもね」
ケイ「ねええ、お友達にならないい?」
カオル「あ・・うん」
ケイ「よろしくねえ、カオル」
カオル「うん。よろしく。ケイ」
ケイ「ねええ、カオルう」
カオル「何?」
ケイ「私もごめんねえ」
カオル「え?・・何が?」
ケイ「ううん。なんでもないい。ねええ、みんなあ、一緒に遊びに行こお?」
かかし「え!?そいつも一緒かよ」
ケイ「だめえ?」
かかし「・・別に、だめじゃないけど」
ケイ「くすくす。やったあ。じゃ、いこお?」
カオル「よろしく」
魔女「あ・・うん。よろしく」
狐「よろしく」
かかし「い、行こうぜ」
魔女「あ、ちょっと!待ってよ!」
狐「ちょ、待てよ」

(かかし、魔女、狐、退場 カオルも歩いてついていく)

ケイ「今度こそ、誰も死なない世界にしようね」

(退場 暗転)

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

あなたはだれ 5-1

あぁ・・そうそう。こんな話だった。最初考えてた時←

最終幕です。
今までお付き合いいただき、ありがとうございました。
皆さんの中にも、おそらくちょっと怖くてちょっとユーモラスな、そんな住人がいるかもしれません。
これは、そんな自分自身と向き合った一人の少女のお話でした。みなさんも、自分を、そして世界を愛してあげてくださいね

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閲覧数:101

投稿日:2011/04/25 21:49:04

文字数:3,222文字

カテゴリ:その他

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