ねぇ、初音さんしってる?この町に『歩く都市伝説』って呼ばれてる人がいるんだって。怖いよね。だって鏡とお話しする女の子だよ。考えただけで恐ろしいわ。

 そんな話、ミクにはどうでも良かった。根も葉もない話にミクは興味がなかったから。夕方、学校の下校時間に残っている女の子達が話す内容は最近そればっかりだ。ウンザリする。そう思いながらミクはボカロ荘へと帰る。すっかり辺りは夜になっていたが大型のトラックが駐まっている。誰かが引っ越してきたのだろうか、荷物を運んでいる人を見かけた。その人達を少し追うとどうやらその人は自分の部屋の隣に来るらしい、段ボールが山積みになっている。―ワレモノ注意。一段と大きい段ボールにはそう書かれているシールがあった。食器とかかな。しかし、それにしては量が多すぎる。少し蓋が開いていたので中を覗くとそれは大きな姿見だった。丁寧にビニール袋に包まれている。
「あぁ、開けないで下さいよ。」
 引っ越し屋の人に怒られた。
「ちょっと手伝いましょうか?」
 謝った後、開き直ってミクは言った。
「嬉しいけど女の子じゃあ…。」
「これでもここに住んでいるんです。それに重い荷物は慣れているんです。」
「そうかい?じゃあ少し手伝ってくれる?」
 ミクは部屋に鞄を置き、いくつか段ボールを隣の部屋の中へと入れた。


 しばらくして部屋の片付けが終わるとさっさと引っ越し屋は逃げるようにして去っていった。
「鏡音さん、かぁ。同年代だと良いな。」
 表札をちらりと見て彼女は部屋へと戻っていった。
 次の日、その“鏡音さん”がやってきた。自己紹介するとミクより年下だった。それに何だか具合でも悪いのか、暗そうな顔をしている。
「あ、あのぅ…。」
 自信なさげに言うリン。メイコは背中をトンと叩くと
「ここにはいろいろ“訳ありな人”がいるから大丈夫よ。」
 だが、どう見ても“訳ありな人”がいるようには見えない。一人はさっきからずっと暑そうな格好をしてアイスを食べているし、もう一人はポヤポヤとしている。ふとリンは見覚えのある青いマフラーをした彼と目が遇った。どうしたの?と言いたげな顔をしている。
「大丈夫だよ。」
 彼にそういわれてしまった。余計に口を閉ざしてしまうリンにミクは声をかける。
「もしかして“都市伝説”の子?」
「どうしてそれを?!」
「なんとなく。でも大丈夫だよ。誰もリンちゃんを責める人なんてここにはいないから。」
 そういわれて心が軽くなったのか、リンは明るくなった。ただし、メイコとカイトは何のことを言っているのか分かっていなかったが。


「ミク姉って考えてみれば結構鋭いよね。」
 本人を目の前にして言うリン。ポテトチップスを一つ、袋から取りだしそれを食べた。
「だってリンちゃんが来たときわたしの通ってた学校でその話が持ちきりだったんだもん。」
 そうだったんだ。そういいながらリンはまたポテトチップスを食べる。
「あそこ色々変な噂流行らせるの好きみたいなんだよね。“今でも”そうなのかな。」
「さぁ?」
 くすくすと笑いあう二人。
「そういえばあの後聞こえたよ。アカイトさんの事知ってるみたいだったけど…。」
 あの後、とはカイトの話を聞いた後のことだ。
「あぁ、あれね。前にレンと話してたときにそれっぽい話題が出たからその時知ったの。」
「へぇ、そうだったんだ~。」
 一口、炭酸ジュースを飲むミク。奥でカタカタと音がした。
「ちょっと待ってて。」
「はいは~い。」
 リンは立ち上がると奥から少し大きめの手鏡を取り出してきた。
「これってさ、事情知らないとただの怪奇現象だよね。」
 小さく笑いながらミクが言う。
「それ言えてる。」
 やはりリンも笑い出す。
『笑うなよ二人とも!』
 ぷんすかと怒るレン。
『あの後色々と大変だったからな!!』
 しかも手鏡の柄が可愛らしい物だからか、余計に二人は笑いあった。
「だってご丁寧にあたしの部屋にある鏡という鏡全部に書いてくれたもんね、アレ。」
「そうだったの?!」
 きょとんとするミクを余所目にレンはため息をつく。
『だってリンが…。』
「はい、それ以上いわな~い。」
 制止されるレンの口。といっても実際は何もされていないのだが。
 チャイム音が鳴る。リンはいそいそと鏡を閉じると玄関のドアを開けた。ルカが現れる。しかも少々窶れている。
「どうしたの?」
「へ、変質者が!」
「『変質者?』」
「と、とにかくここに居さして下さい!」


 急いでドアを閉めるとガンガンと音が聞こえた。しかも「何処にいるんだ~い!?愛しの可愛い人よ~。」と気持ち悪い声まで聞こえる始末。
「何あれ?」
「さぁ?こっちが知りたいわよ。」
 いつも以上に冷たい口調になるルカ。こっそりリンはレンに言うが誰そいつ?の一点張りだった。
“ここにいるんだろ~?隠れてないで出てきてくれよ~!”
 ドアの前には“奴”がいる。三人ともビクビクしていた。
『なんか聞いたことある声のような気がするんだけどな。』
「だったら誰なのよあいつ?!」
『確か…。』
“そこにいるのはレンだな!今助けてやるぞ!”
『はぁ!?』
 ドアの前まで聞こえるものなのだろうか。レンはまたため息をし始めた。
「レンのこと知ってるみたい。」
『関わりたくねぇ。…“あいつ”だ。』
「「「あいつ?」」」
 ぴったり、声が合う三人。
『クオ兄だ。』
 レンがそう言ったのと同時に合い鍵でも使ったのだろうか、ガチャッとドアが開く音がした。


「なんだぁ、そういうことだったのかぁ。」
「それでも不法侵入は良くないと思います!」
 ルカが一発、彼―ミクオの顔面を殴る。話を聞く限り彼は鏡の世界の住人で女性をナンパしに来たらしい。
「この女の敵!」
 もう一発。顔面を殴るルカ。ゲフッという声と共に倒れるミクオ。
「ルカさん、そこまでにしたほうが良くない?」
「そこの黄色い君の言うとおりだよ…グヘッ!」
「もう、何よ!」
 また一発、蹴られる。
『いい加減口閉じろよクオ兄。』
 心なしか、レンも冷たい。それからリンを呼ぶ。
『頼む。アイツ一発殴るか蹴るかしろ。』
「なんでよ。ルカさんで充分でしょ?」
『俺がむかつくんだ!』
 無言でリンはミクオのお腹を蹴った。
「これでおあいこだからね!」
 そう言うリンはなぜかとても嬉しそうだった。
「ちょ、ちょっとレン君?なんグヘェ、こんなことするのギャ、な?」
 ルカに蹴られ、殴られながらもニコニコとした顔で言うミクオ。
「この人、Mなんだね。」
 ミクが冷静に言う。
『俺も今さっき知ったぞ。』
 呆れている黄色い二名。
『まぁ、とにかく。クオ兄、お前はこっちに還ってこい。』
「なんでさ。」
 青い痣だらけのミクオが言う。ルカはリンに抑えられている。
『メイ兄が心配してたし。』
「兄さんが?!」
『じゃないと“アレ”使うぞ。』
「か、還りますとも!」
 しばしの無言が流れる。
「んで、鏡は何処にあるのかな?可愛い子猫ちゃん達。」
「抑えといて。」
「「ラジャー!」」
 ミクとルカに手を押さえられつつも鏡張りの部屋へ案内する三人。
「それじゃね☆子猫ちゃん。」
「二度とこっちくんな。」
 ミクオが鏡に手を添えると鏡に波紋が出来上がる。それに吸い込まれるようにしてミクオは鏡の中へ入っていった。
「それじゃ、私達も帰るね。」
「うん。」
「また、明日ね。」


「それにしても何だったのアイツ。」
『あれが所謂変態紳士ってやつなんだろうな…。』
「変態紳士、ねぇ…。関わりたくもない。」
 一息、つくと言う。
「鏡の世界にいる人ってあんなのばっかりなの?」
『アイツが変なだけ。』
「そうなんだ。」
『まぁな。』
 鏡からレンの姿が消える。自分の居場所に還ったのだろう。
 リンの部屋から、電気が消えた。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

とあるボカロ荘の一日 『歩く都市伝説』と鏡の住人編

長くなりすぎた(汗


まぁ、書いてて楽しかったからいいや。

一応、前の三つ見た方がいいと思われ

閲覧数:191

投稿日:2010/08/07 20:30:58

文字数:3,252文字

カテゴリ:小説

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