少女のゆたかな長い髪は原色の緑色、見上げるひとみも緑。
 おや、爪までグリーン。きっと、体毛もみどりなんだろう。
 いつもの慣れしたしんだ幻覚ってやつだ。間違いなくそう。
 少女がもの言いたげに唇を震わせたがすかさず手で制する。
 ああ、喋らなくていい。どうせ俺にはなにも理解できない。
 全身血の色の警察官よりはましなこと言うかも知れんがね。
 あいつはひどかった。「お前は天才だ。さあ、私とともに」
 なにが天才だ。自分のことは自分がいちばんわかっている。
 シャワーをたっぷりあびて鏡を見てからおととい来やがれ。

 少女は、とがめるように緑色の長いまつげをしばたかせる。
 なんだよ、まだなにか言いたいみたいだ。いいよ、喋れよ。
「わたし、わ、ここにいない、けど、どこにでも、いるから」
 奇妙な節で歌うように、吐息まじりの少女の声が頭に響く。
「わたし、わ、しってる。あなた、の、すきだった、うたも」
 ふん、なかなか芸達者な幻覚じゃない。歌えよ、その歌を。

 俺は息を呑んだ。俺の記憶は一気にフラッシュバックした。
 少女はいたずらっぽく笑ってつづける。誰も知らない歌を。
「いいのよ、うたっても。そう。これはあなたのうただから」
 俺はおずおずと口をひらき定まらない音程で歌いはじめる。
 少女のハーモニーがさらなるフラッシュバックを誘発する。
 声はだんだんと大きくなっていく。少女は笑う。俺も笑う。
「そう、たのしかったよね。うれしかったよね。だってきみ」 

 空っぽの部屋に低くひびく歌声に俺は気がついて、それで。
 口をひらいたまま、黙りこんだ。歌っていたのは俺だった。
 少女は、姿を消した。もうどこにもいなくなってしまった。 
 俺は、もういちど唇をひらいた。震える声で歌いはじめる。
 思い出せなかった。あの歌は、どこかに、消えてしまった。

 なんだよちくしょう。なんで俺泣いてんだよ。ちくしょう。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

【小説】みどりのおもい

 一行が27文字しばりだけどこの数字にとくに意味はない。
 ついでに言うと、27行しばり。数字には全く意味はない。
 少々急ぎすぎたきらいはあるけど、でもこの長さになった。
 小説かく人のスレッド読んで、書いてもいいのかと思った。
 ええとしこいたおっさんのかくもんじゃねえなという気も。

閲覧数:445

投稿日:2008/04/09 19:49:45

文字数:817文字

カテゴリ:その他

  • コメント5

  • 関連動画1

クリップボードにコピーしました