人間なんて卑怯で臆病な生き物だと、人は言う。
いざとなったら自分の事しか考えない。
自分を犠牲にしてまで、他人を助けるなんて、人間はそこまで親切じゃない。

そりゃ、うわべばかり親切な人なんて、いくらでもいる。
自分の立場とか、命とか、そういうのが危機にさらされたら、いくらなんでも、余裕なくなるでしょ。他人になんて、かまってられなくなるでしょ。どう考えても、自分の命を優先するでしょ。

人間は皆エゴイストで。醜くて。
でも皆、その醜さを、見ないようにしてる。見ないふり。見ないふり。
人間なんてそんなものでしょ。そうだよ。
……えっと、なんだっけ。確か、そんなエゴイズムをテーマにした、小説があった。
あの、あれ。なんだっけ。名前忘れちゃった。

二人の男が一人の女を取りあう奴。いわゆる三角関係のあれ。で、最終的に男が二人とも自殺しちゃうあれ。なんだっけ。
うーん。

あ、思い出した。「こころ」だ。
登場人物までは思い出せないけど。でも、三角関係で、エゴイズムをテーマにしてる事は確かに覚えてる。
私は、あれを読んで不覚にも感動を覚えたくらいだから。

恋愛は、自分のエゴイズムが一番現れるところだと、私は思う。
相手にものをゆずって、その代わりになるものを別に手に入れられればいいけどさ、恋愛はそうはいかないでしょ。

たとえば、リンゴが目の前にあったとして。
自分がそれを食べたいとして、けど、他の誰かもそれを狙ってるとして。
その人から、「リンゴ一個分の金をやるから、このリンゴは、今は俺に譲ってくれないか？」と言われたとして。
自分は、どうしてもリンゴが食べたいとは思ってない。でも相手は無性に欲しがってるし、それに金もくれると言っている。だったら、ここは相手に譲るのが道理だと私は思う。

これが、恋愛の場合は代わりがきかないから。
自分が好きな、片思いの相手をどうしても自分に惚れさせたい。付き合ってほしい。
けど別の誰かがその子を狙っていて、私の邪魔をする。そこで、金をやるからあきらめろなんて、そんなの無理だ。

今言った通り、人間は誰もがエゴイストだって分かるでしょ。
そう、だから、私は君を守れないんだね……。

私だって、人間だから……。

エゴイストだから。