【ふぐ編】
 私が一生懸命ストローで吸っていると、何物かが話しかけてきた。
「よお、姉ちゃん、其の服似合ってないね」
カチン
「あら、こんにちは。」
振り返ってみると、其処には河豚(ふぐ)が居た。
私は、こんなデカイフグを見るのは初めてだ。
いや、違う。
大きさは普通なのだ。
しかし、私は今ワカメの国に居るから、体が縮まっている様な物なのだ。
だから、大きく見える。
それはそうと、「似合ってないね」って、どんだけ!
私は怒りを覚えた。
「しょうがないでしょ!此の服は此の仕事場の制服なんだから」
「あっそ」
それにしても、怒りの感情を覚えたのは何時以来だろう。
人間界での学校の教諭としての仕事では、気を使う事が多くて、素直に単純に怒ると言う機会が少なかった様に思う。
今と成ってはだが。
 其の夜、フランジェリムさんに電話を掛けた。
そして今日の出来事、即ちフグに話しかけられた一部始終を話した。
「ああ、そいつね」
「え知っているんですか」
「ああ、知っているよ。そいつはワカメの国の近くをよく泳いでちょっかいを出してくるんで有名なんだ。
こんな大変な時期(ワカメの国とコンブの国の戦争)なのによくもまあそんな軽口を叩けたもんだ!」
「そうなんですよ。初めて会って早々、『其の服に合っていないですね』だって!失礼しちゃう!」
「ああ、でも気にしない方がいいよ。あいつはね本当はいい奴なんだよ。ただ、一緒に付き合ってる友人ああ違う「友魚」が悪い奴等でね。
ヒトデとか、そいつ等の毒舌が移っちゃったみたいだ。前はいい奴だったんだけど。そいつ等と付き合いだした頃から…ね。
もともとあいつは毒を持っていないんだ。周りからの吸収物で悪い毒を持つ事になっているけれど。」
テトロドトキシン。
フグの毒の名前。
フグの皮下に存在する毒。
食べると危険。
其の話を聞いて、私は思う所が有った。
私が人間界で教師をしていたときの事だ。
もう随分前の様な気もする。
生徒の最近の流行言葉が私にも移って来る事があるのだ。
全然そんな積もりは無いのだけれど、頭に其の言葉遣い、音の発し方、音の流れ方がインプットされる様なのだ。
私もすぐに影響されて普段から、目上の人に迄其の流行言葉を使いそうに為ってしまった事が有って、其の時はひやっとした物だ。
人は環境に拠って良くも悪くも成る。

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小説ワカメの国 第九章 正し過ぎた人 畑広美の物語【フグ編】

フグの毒はテトロドトキシンです。TDKだっけ?
まあ、略語何てどうでも良いですよ。
※小説「ワカメの国」は現在「KODANSHA BOX-AIR新人賞」に応募中。
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Yahoo!版電子書籍「ワカメの国」は此方
URL:http://blogs.yahoo.co.jp/wakamenokuni
です。

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投稿日:2012/02/14 03:40:19

文字数:986文字

カテゴリ:小説

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