----願うことすら、罪だと言うの?
祈ることすら、赦してはくれないの?
今日も盛大に鳴る、アラーム。
時刻は6:30…
「ぇ?7:00!!??」
目覚まし時計を確認して、跳ね起きる。
さっきまでの夢の余韻も、寝起きの気怠さも一気に吹き飛んだ。
とりあえず「どうしよう」しか浮かばない。
頑張れば間に合うか、とか。遅刻の理由を正直に寝坊と言うか、とか。
そんなことをぐるぐると考えて、一つの疑問にたどり着く。
「……なんで、アラームを7:00にしたんだ…?」
つぶやいた瞬間に思い出して、脱力した。
「入学式だからじゃんよ…自分…」
はぁっと、大きい溜息をついて。いつもと違うスケジュールで今日を始めた。
正門を抜け、下駄箱へ向かう。
そこに見えたのは、ハルとトモ。今日は二人のが先に着いているのか。
「っはよーす」
2人に向けて挨拶。振り返ったハルは、こちらを見た瞬間に(不気味なほど)にこやかになる。
「やぁやぁ、マキ君。清々しい朝だね」
「…うっゎ、きも…」
すかさず小声で突っ込むトモ。同感だ。
「……悪い物でも食ったのか?」
一応、尋ねる。
「んん?僕の心配かい??いつもながらに、マキ君は優しいね!」
「……」
もはや、手遅れか…。
「なんと言っても、今日は入学式!純真無垢で幼気な下級生たちがまた、僕のシモベとなるべく、この学校へ入学する訳だよ!こんな素晴らしい日に何をお腹を壊すことなどっ」
トモと二人で顔を見合わし、深く頷く。流石トモ、何も言わないでもわかってくれるか。
「トモ」
「みなまで言うな、マキ…残念だが、仕方がない」
「そうだな…亡くすには惜しい…惜しくもないか?」
「…」
さて、最早有害物質と成り果てたこの元級友をどう処分するか…2人で相談に入る。そんなこちらの殺気にも気付かずに、ハルの演説は続く。
「----であるからには、新入生や上級生に厭わず、先生に至るまで!スベカラクこのハル様をだな…」
…ん?
ふと思いつき、ハルに向き直る。
そして恭し気に訊いてみた。
「…ハル様?」
「何だ、平民」
やっぱり、始末するかな。
「スベカラク、てどんな意味です?」
「……」
あ、素敵な笑顔のままで固まってる。やっぱり、知らなかったか。
難しい言葉が好きな癖に、意味を知らないでそれらしく使ってることあるからな…こいつ。
「須らく…『当然・絶対』って意味ですよね?…ハル、様?」
不意に、後ろから笑みを含んだ柔らかな声が割り込む。
驚いて振り向くと、すぐ後ろに見慣れない子がいた。
ストレートロングの髪はそのままにすとんと落とし、真ん丸な黒い瞳。
「…えっと、そうそう。勿論知ってるよ、そういう意味…で、君は?」
薄いオレンジ色の唇が開いて、そこから声が零れる。
「サキ…柳田咲って言います。今日から、この学校の生徒です」
よろしくお願いします、先輩方…と加えてぴょこんとお辞儀をする。
襟元を確認すると、確かにタイは緑。新入生の色だ。
制服も間違いなく、真新しい。
にこにこと人懐っこい笑顔を崩さずにいる。
「…き、マキ?」
トモに肩を掴まれて、我に返った。
周りの動きは、認知していた。簡単にハルとトモとで自己紹介を済ませたばかりだ。頭には入っていたのに、行動に移せなかった。
「マキ?この間から…本当に体調悪いのか?」
三人とも、心配そうにこちらを見ている。
その…茶色い瞳と、焦げ茶、黒…あぁ……。
そこで悟った。
今まで、自分が見ていた世界が、すべてモノクロだったことを。
ゆっくりと見回す。
こんなにも、色鮮やかだったのか……。
認識したところで、俺の意識はふつりと切れた。
焦った様子で、俺の名前を呼ぶハルとトモの声を聴きながら。
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