一曲を歌いきり、ミクは再び幸宏に語りかける。

「幸宏さん、如何でしたか」

「素晴らしい、素晴らしかったよミク。お前に、いや、君にはまず謝らなければならない。今まであねような酷い扱いをしてしまって、本当に申し訳なかった。好きなだけ殴っていい。許してくれ……」

 幸宏はベッドから床に座り込み、立ち塞がるミクにひたすら頭を下げた。今まで彼女を蹂躙した自分への後ろめたい気持ちを吐露し、情けないくらい涙を流して。

「分かって頂けたなら、それでいいです。幸宏さんに今までこの家に住まわせて頂けたわけですし」

 ミクは座り込む幸宏と同じ目線になるように腰を下ろし、満足そうに、笑って答えた。

「今まで、俺は音楽の大切な部分を見失っていた。音楽への純粋な情熱と、音楽を好きであるという気持ちを」

 完璧主義を貫こうと、ただひたすらに良質なものばかりを貪り求めていた彼。だがそんな主義を否定し大切な部分をまた教えてくれた存在が現れた。それが彼女である。

「よかったです。幸宏さんに、大切なこと思い出させることができて」

 男の涙を拭い、彼女の肩をがしりと掴む幸宏。ミクは少し驚いた様子で彼の顔を見た。強い何かを決心した顔である。

「ミク、君はまだクズなんかじゃない。いつか綺麗に輝く、宝石の原石だ。俺が君を宝石のように美しい歌姫にしてみせる。絶対にだ。だから今まで通り家に住んでくれ。頼む」

 彼女にとっては、そんなことを言われて嬉しくて嬉しくて苦しかった。肩を震わせて、涙目である。彼女は涙を堪えて笑う。

「はい、よろしくお願いします!」

 彼女の笑顔は至福に満ち溢れていて、見ていた幸宏も自然と笑みが零れた。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

Fragile angel 20

閲覧数:52

投稿日:2010/11/05 00:03:10

文字数:713文字

カテゴリ:小説

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