【小説】常識科学の魔法学10

投稿日:2016/10/20 13:30:34 | 文字数:3,085文字 | 閲覧数:78 | カテゴリ:小説

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TEXT
 

翌る日、結局今後の行動を示唆する結論を導けなかった俺たちは深夜にまで及んだ作業に疲れ果て、いつの間にか各々自室に戻っていた。
ブラックメーカーが仮にうさジャージの妹だったとしたら、その妹は人殺しということになるが、俺たちの進む方向として本当にこれで正しいのかという葛藤が少なからず頭に残っていた。
食堂に下りる。
時計を確認すると、午前10時半。
よし、今度こそ清々しい朝だ。間違いない。
「朝ご飯?とっくに終わってるわよ?」
「あれ?」
そこにはうさジャージと聖姉さんが、コーヒーを飲みながら女子会じみたものを開催しており、場違い的に降りてきた俺を見下したように蔑んだ目をしたうさジャージと目が合うと、俺はあえてこの場に居座ることを決意した。
社会マナーとして仲間外れはよくないよね。うん。
「おい、なぜ私の隣に座る。」
「いやいや、うさジャージの隣に座ったわけではない。たまたま俺の隣にうさジャージが座っていたに過ぎない。」
「・・・聖さん、席変えましょう。」
「待ってお願い見捨てないで!」
俺は素直になった。
「・・・仁君。」
かわいそうな人種を見るがごとく聖姉さんは俺を見る。
気にすることはない。頑張れ俺。
そう自分に言い聞かせる。
「朝ご飯はないけど、美雨ちゃんのブロマイド写真ならあるわ。」
かわいそうな人種を見兼ねた聖姉さんは恐らく盗撮をしたであろううさジャージのプライベート写真を持ち寄った。
朝ごはんはなくてブロマイドならある?
食えというのかそれを・・・

ウサギの人形を抱き締めているうさジャージ。
その人形を抱き枕によだれを垂らしながら幸せそうな顔をして寝ているうさジャージ。
「ちょっ・・・いつ、いつ撮ったんですかこれ!!」
うさジャージは聖姉さんから写真を脱兎の如く回収すると、耳を真っ赤にして程なくして縮こまった。
と言っても、朝ご飯の代わりに差し出されたそれでご飯を食べられる領域にまだ達していなかった俺は若干の安堵を感じている。
「く〜、かわいいなぁもぉ。」
聖姉さんはうさジャージに抱きつくと、そこかしこをペタペタと触り始めた。
これは百合?百合という奴なのか?
眼上に広がる神々しい世界が眩しく光ると、「けしからん」という言葉が浮かんだ。
混ざりたい。
とは思うけど流石に言えないよな。
うさジャージは諦めたのか、面倒になったのか、なすがままの状態で眉に皺を寄せ、コーヒーを啜った。

「で、結局どうします?正直、ここで調べていても埒が空かないと俺は思います。」
朝ご飯にありつけなかった俺は昨日の総括として話を持ちかけることにする。
少し調べた事を整理してみよう。

一つ。
6年前に起きた事件においてうさジャージの聞いた犯人、馬橋総一郎の死因が警察の報告の死因と異なる。

二つ。
うさジャージに犯人の死因を伝えた刑事・小金井隼人はつい2ヶ月前の事件でうさジャージに伝えた内容と同じくして死亡。
ちなみに資料によれば、うさジャージ事件の直後、一身上の都合という名目で警察を辞職している。

三つ。
うさジャージの言う妹は掃除用ロボとして登場したが、警察の報告によればその痕跡は一切なく、話題にも上がっていない。

身も蓋もない話ではあるが、うさジャージの話が全て嘘とすれば辻褄はあっているし、事実としてそうなっている。

私は美雨ちゃんを信じた上で物事を考えたい。──
聖姉さんの言葉が脳裏をよぎった。

あの時のうさジャージの話。
ニュースにもなった事件の被害者がこうして自分の目の前にいると言うことに俺は未だ抵抗がある。
まぁ確かに同じ寮の後輩だしな。
もし騙されたとして、それはそれで何かの進展につながるはずだ。我孫子の足が掴める可能性が少しでもあるのなら、この話を進める価値はあるかもしれないと俺は思っていた。

うさジャージの言うことが全て事実だとすれば。

達樹先輩はああは言っていたけど、警察の隠蔽説で言うなれば情報そのものが違うのだからそもそも検証は無意味だ。
また、小金井が言った死因と全く同じ状況で小金井自身が命を落としていることは少なからず、小金井と馬橋には何らかの接点、若しくは共通して何かに巻き込まれたことになる。
当面怪しいのは『お偉いさん』だが、あからさまに調べるというのは避けるべきだよな。
結論として、ifが多すぎるというのが見解だ。
結論がだせないという結論に至る。

であるならば、今動くとしたらこれしかない。

「xx県、行ってみませんか?」
自分でも思い切った発言をしたと思う。それは裏付けという名の情報収集に他ならない。
「あぁ、ついに仁君もxx県に行くとか言い出しちゃった。」
聖姉さんはアワアワと大袈裟に振舞った。
「いや、聖姉さんの言う通り、うさジャージを信じるとしたらどう考えても避けて通れないと思うんですよね。」
「まぁ覚悟はしてたけどねぇ。美雨ちゃんともその件で話してたとこだし。」
「私はもともと行く気ではありました。一人で。」
「またそういうこと言う。それは寮母として容認しません。美雨ちゃんの身に危険が及ぶようなことは極力避けないと。」
聖さんはそういうと再びうさジャージにペタペタ触り出す。
なんと。
あれだけ考えた結論にだったのに既に結論は出ていたとな?
「・・・身の危険は感じていますが。」
そう言ったうさジャージの目は虚ろだった。



「で、なんで毎度そういう事を俺のいないとこで決めるわけ?」
達樹先輩と久々に銭湯に入りに来た俺は、午前中の話を「そう言えば達樹先輩に話してなかったなぁ」などと思い出したところで話を打ち明ける。
すると、達樹先輩は憤慨して俺に抗議を申し立てたのだった。
「あれ?予定ありました?残念です。また次回...」
「いやいや行かないなんて言ってないだろ。そんで諦めんなよ俺を。俺が言ってるのはだな。こう、もっと全員の意思を尊重して動くと言うことをだな・・」
「行きたくないんですか?」
「そういうことじゃねぇんだよ。」
面倒くさいことになってきたと思った頃には達樹先輩のボルテージは既に上がり切っている。
「市民権がない事に憤ってんだよ。投票させろ。」
「既に3人の投票で可決されてるのに?」
「そういうことじゃねえんだって。わっかんねぇかな。」
先輩が言うには市民権があるかどうかが重要なのだという。
いやこの場合は寮民権か?
「どっちでもいいんだよ。そんな事は。」
俺は湯船に埋れた。
「・・・xx県か。やベーな、2対2で旅行だぞおい。」
急に神妙になる先輩。
「先輩、分かってるとは思うけど、遊びではないですからね?」
「分かってる分かってる。まぁ一人は特にそういうハートフルな出来事は絶望的だけどな。取手ちゃんならアバンチュール的ななにかがあるかもしれん。」
「いや、あれこそ絶対そんなのないですって。大体なんですかアバンチュールって。」
「恋の冒険。危険な恋。リサーチドバイウィキ調べ。」
「恋の冒険・・・。」
「由来のフランス語では体験、冒険とかって意味で別に恋愛は関係ないみたいだけどな。」
「カタカナ語ってやつですかね。」
俺と達樹先輩はアバンチュールという言葉の具体的な情景を実際の人物におきかえて頭の中で想像する。
「やべぇな。アバンチュール。」
先輩の顔は既にゆでダコ状態である。
結局俺と先輩は、銭湯の番台さんに湯船から担ぎ出されるまで、どうでもいいアバンチュールという言葉の意味を考え続けたのだった。

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