第二章   

ある日曜日の事、私は主人と買い出しへと出掛けていた。
出たついでもあって色々なお店を見て回っていた頃、高身長の青年の様な男性に突然「すみません」
そう呼び掛けられて話を聞いてみる事にした。
なんともない他愛もない会話だったが、「それじゃあ、私は行くね」そう伝えて主人の元へと
戻ろうとした時、声を掛けてきてくれた彼は「連絡先を教えてはくれませんか?」そう私へと投げかけた。
私は人と出逢う事に抵抗がないし、彼の事も何か相談事でもあるのだろうか?と思い
いつもの様に満面の笑みで「大丈夫ですよ」と彼に伝え、連絡先を交換する事となった。
それから数日に渡り、連絡を取り合う事になるのだが、相談事でもなく只の会話が暫く続くようになった。
彼は私に好意を持っている様に思えたが、私はその時なんとも思っていなかった。
「会う事は出来ますか?」そう言われた時に私はそれは流石に無理があるだろうな、と思いお断りをした。
携帯で連絡を取り合う程度、それだけの関係だった。
色々と連絡を取り合っている間に分かった事で彼はとても現状に生き辛さを感じている事を知った。
人には色んな悩みがあるだろう、私も同様に。
連絡を取り続けている間に私達はお互いの悩みも全てではないが打ち明ける様になっていた。
彼はとても良く泣く人だった、毎日が苦しかったのだろう。
何が彼をそんなに苦しめているのか、私には分からなかった。
そんな彼を放っておくことが出来なくなったのは事実だ。
それと同時に、彼を知ってみたいとも思う様にもなった。
いつも気丈に振舞っている彼の心が知りたくなったある日、
彼は唐突に体調が優れない事を私に伝えてきてくれた。
「耳鳴りが酷い」そう言っていた彼はいつもの気丈な笑顔や笑って居る様子は無く、
とても苦しそうだった。
日常でのストレスの関係なのか、感染症なのかは分からない。
でも、「耳鳴りが酷くて頭が壊れそうだよ」とても辛いであろう現状を伝えてくれた。
とてもパニック状態にある様に感じた私は「落ち着いて、深呼吸をして」そう伝えたが、
彼のパニックはどんどんと酷くなる一方だ。
病院へと行かなくてはいけないけれど、誰も彼を助けてくれる人が傍に居ない様だった。
私はとても心配な気持ちで彼からの連絡に私が落ち付かせてあげなければ、と
何故か、責務を感じてしまったのである。
色々と対処法を探しては提案を試みるも彼のパニックは収まらない。
どうしよう、そう思っていた時に「眠ってみるよ」少しだけ落ち着いたのか彼からそんな連絡が来ていた。
対処法の一つに眠る事も良いと見つけていた私は、ほんの少しだけホッとした。
「あまりにも耳鳴りが酷い様なら連絡して?」「ゆっくりおやすみね?」とだけ伝え、
それから、彼からの連絡は途絶えてしまった。
彼は元気にしているのだろうか、今どういう現状や気持ちなのかが気になって仕方が無かった。
彼からの連絡を待っている間、私の頭の中は彼で一杯になっている事に気付き、
私は恋をしてしまったのだろうか、そんな風に感じる様になっていた。
そんな中で私は平凡な日常を当たり前の様に過ごし、主人との関係でも余り会話もなく、
私に興味や関心がないのだろうな、と思って過ごしていた。
それでも私は主人に向けて笑顔で接してしまう。
どんなに疲れていようとも。
いつもの様に作り笑顔で主人との軽い会話を交わした後、私は煙草に火を点ける。
作り笑顔で接する事にも私には簡単に出来る事だが、自室に戻って来るととてつもない疲労感が私を襲う。
私が精神を病むきっかけになるのは決まって主人だった。
主人の態度、言葉遣い、表情、雰囲気、全てから感じる私への威圧感。
苦しいけれど、どうする事も出来ない私は彼にそんな悩みも打ち明けていた。
彼からの連絡が途切れてしまった私は路頭に迷ってしまったかの様にどうしたら良いのか分からなくなっていた。

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煙の行方

ある日曜日に一人の青年に出逢う事になる。
連絡を取る度に気になっていく彼への心。

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投稿日:2024/02/04 23:15:52

文字数:1,625文字

カテゴリ:小説

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