厚手のマフラーで口元を隠す
閉じれば見えると思い込んでいる
足元にかしぐ狭隘の灯り
踏み降ろせば抜ける底
右の耳から豊饒の鐘
左の耳から怨嗟の炎
入りび抜けては背筋を正した
響もす鎚音の届く限り
駅のホームで出逢った子ども
線路の隙間 敷板の上
何も言わずにこちらを見ていた
生ゆる二対の耳に溺れかけては
何も言わずに目を逸らす
フードに隠れたあの子は神様
白線の手前で削げる愚図車掌
空に浮かんだ青銅の騎士は
萎びた太陽を狩り勇む
きっと誰も見えてはいないんだ
英雄と呼ばれた物語を
きっと誰も知り得ていないんだ
残虐と畏怖した殺人鬼を
きっと誰も聞いていないんだ
可憐に謳い紡ぐ歌姫を
きっと誰も気付いていないんだ
モブと呼ばれた者の大往生を
見たくない
見ていたくない
そこには何もいなかったんだ
捻れば溢るる蛇口のよう
空っぽの鉢
干からびた猫
錆びた錠前
朋輩の夢
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