「良いなぁ~、幸乃君。私も山さんにあんなこと言わせてみたいなぁ~」
昼休み、昼食を第二棟の屋上で低い机を挟んで向かい合わせになっているベンチに四人でとっている。低い机には幸乃が作った四人分の弁当が置いてある。
そんな時にそんなこと言ったのは、幸乃の前のベンチに座っている伊達鈴華だ。
「おっとぉ~?!お姫さん。また贅沢なことを言うネェ、と。昼食係のような人間とは違って、普通の人間には無理だゾ、と」
と言ったのは幸乃の左で胡座をかいている拓也だ。なぜか鈴華のことを“お姫さん”と呼ぶ。
「そんなこと言わないでよ、拓也。頑張れば普通の人でも言わせられるかもしれないじゃん」
と反論したのは鈴華の右、つまり拓也の前に座っている小牧美穂だ。ちなみに拓也の彼女だったりする。
「というか俺は普通の人間じゃないような感じじゃないかい?」
と幸乃は言う。すると拓也は悪戯っぽく
「当たり前だゾ、と」
と言う。おいおい…。
「ねぇ、幸乃君。何かコツはないの?」
と鈴華が尋ねてきた。
幸乃は腕組みをして、そうだなぁ~、と数秒間考え込む。
「問題の出し方には規則性らしきものはあるにはあるけど……」
と幸乃が言うと、
「それだっ!」
と鈴華は言って幸乃の手を取る。幸乃はビックリした顔で「えっ、はいっ?!」と言って、顔を赤くした。
「規則性があるなら、次の問題、何が出るか分かるんだよね?!」
鈴華が幸乃に迫る。
「まっ、まぁ…、とりあえずだけど………」
幸乃は物凄くどぎまぎしている。
「お願いっ、教えてっ!だから…、今晩、幸乃君の家に行って良い?!」
鈴華が両手を合わせて言う。幸乃は鈴華の瞳が物凄く輝いているのに気付いた。
「……え、あっ、……い、いいよ、ハルも喜ぶだろうし。………でっ、でも、良いの?俺の家なんかで…」
幸乃はいきなりの事だったので、しどろもどろになりながら言った。おそらく、幸乃の家に来て夕食を御馳走になろうという算段なのだろう。別に構わないのだけど
「良いじゃん、幸乃君の家。それに、この後、いつもみたいに村野先生に呼ばれてるんでしょ?」
「そっ、そうだけど」
“いつもみたいに”という言葉がすこし鼻についたが、認めざるを得なかった。
「毎度毎度、ご苦労さんだゾ、と」
拓也がそう言って、桜飯を頬ばる。いかにも美味そうな表情をする。
「同情するなら昨日貸したジュース代を返して」
幸乃はそう言って立ち上がる。
「えっ…、もう行くの?早くない?」
鈴華は幸乃を見ながら言う。そんな鈴華を見て幸乃は鳥肌が立つような感覚に陥った。……なんという上目遣い。幸乃はかぁ~っと顔を赤くし、思わず鈴華から目をそらした。
「めっ、面倒な事は、さっさと済ましちゃいたいから…」
と言って幸乃は目線を鈴華に戻すと彼女の目と合ってしまい、更に顔が赤くなり、終いには耳まで赤くなってしまった。
マズい、このままだと鈴華の上目遣いにやられて行きたくなくなってしまう。そう考えた幸乃は、首を振り、両手で顔を叩いて、「弁当、後で返してね」とだけ言って、屋上を後にした。





「もおぉ~っ!あとちょっとだったのにぃ!」
幸乃がいなくなって十数秒後に、鈴華は悔しそうに指を鳴らしながら言う。
「思い切ってコクればいいじゃん」
と美穂は言って、幸乃特製の玄米茶を啜る。そう言われて、鈴華は不機嫌な顔をして、
「だって、幸乃君、極度のお人好しだから、コクった私のことが好きじゃなくても、断らなさそうでしょ?」
と言う。すると拓也が「確かにナ、と」と言ってエビフライを食べた。
「それだったら、幸乃君の口から“好き”って言わせたいし、言って欲しい…」
鈴華はそう言うと、「これって、贅沢かなぁ?」と拓也と美穂に尋ねた。
すると、美穂は
「贅沢って、思わなくもないけど、良いんじゃない?鈴華らしくて、とアタシは思うよ。拓也は?」
と拓也に話を振る。
「俺も美穂と同じ意見だゾ、と。……だが、お姫さん。その贅沢には問題があるゾ、と。肝心要のアイツが、ウブで、奥手で、さらに恋愛に関してかなり鈍感ときタ、と。…こりゃぁ、道のりは険しいゾ、と」
拓也は鈴華にそう指摘する。
しかし、鈴華はそんな事、分かっていたかのように「うん」と言って、
「だから、幸乃君から“好き”だって言われたら、それは本心だって確信できるでしょ?」
と言って笑った。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

Sforzando!練習番号“1”004

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投稿日:2010/04/10 22:53:17

文字数:1,806文字

カテゴリ:小説

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