…久々に帰ってきたなぁと思う。何せ軽く5年は海外留学していたから。色々とへんてこりんな(と言うより変わり者)が住んでいるこの場所はすっかり空気が変わってしまった。
 私が知っている頃は自然が豊かで何故か近くに農園があった。―それは大家さんの趣味らしく、いつも春か秋頃になると“収穫できました!”ってカタコトの日本語で挨拶しにくるんだっけ。
 カタカタとトランクの音がやけにうるさく感じた。あ、誰か来る。
「オカエリナサーイ!」
 相変わらずカタコトだこと。彼はレオンさんでここ―ボカロ荘の大家さんだ。私は軽く挨拶するとレオンさんが言う。
「ソウイエバ新シイ人来タンダヨネ。」
 ―新しい人?また変な人?
「誰ダッケ?…アァ思イ出シタ!ナンダカ『歩く都市伝説』ッテアダ名ツイテル人ダ!」
 ―いい加減人の名前ぐらい覚えましょうよレオンさん。後で奥さんに何言われても知りませんよ。


 とにかく。折角帰ってきたんだしみんなに挨拶でもしようかな。まずは咲音メイコさんの所から。
 チャイムを鳴らすとすぐに出てきてくれた。“久しぶりね”って言いながらもでっかい酒瓶持つの止めてくれません?私イヤな思い出があるんですけど。
「まあまあ良いから良いから。」
 ―絶対一日酒漬けのフルコースだ。言っておくけど私はそんなに強くはない方なので。
「ほらほら。」
 ―息が酒臭い。心なしか顔が赤いし。もしかしてこんな朝から飲んでいたの?
「じゃぁ、また今度つきあいますから。」
 私はそう言って逃げるようにしてメイコさんの家から出た。フルコースだけは絶対にごめんだ。
 次に行くのは始音カイトさんの家。ドアからして真っ青なこの場所はなぜか甘い匂いがする。またアイスでも食べているのだろうか。
 また、チャイムを鳴らす。中から出てきたのは―

バタン。

 私は見てない見てない。あんな変態!全身真っ裸の首にだけ隠れるようにして青いマフラーをしている彼を。な、なんですかあれは!
 意を決してもう一度チャイムを鳴らす。今度はちゃんと下を履いてくれていた。ただし上半身裸だけど。
「おかえり!」
 ―はぁ。カイトさんは変に気が抜けている。まぁ本人はそれがポリシーだのなんだの言っていたような気がするけど。どうでもいいけど上もちゃんと着て下さい。それからさっきからアイスの匂いがすごくするんですけど。
「あ、食べる?」
「それじゃぁ、ひとつだけ。」
 彼は趣味でお菓子作りをしている。時々(というかしょっちゅう)そういう材料を買い込んではこうやって作っているんだとか。―パティシエになればいいのに。
「あ、おいしい。」
「でしょ?力作なんだ。」
 ―普通のバニラアイスの筈なのにすごくおいしい。商品にしたら絶対売れると思うんだけどなぁ。
「それじゃぁ。」
 アイスを食べ終わると私は礼をしてカイトさんの家から出る。結局上着てくれなかったな。次に向かうのは2階にいる初音ミクさんの所だ。


 ミクさんは私より年下なのにしっかりしているというかなんというか。でもネギ持って振り回すのは止めて下さい。ホントに。あの所為でネギトラウマになったんですよ。
 チャイム音を鳴らしても出ない。収録しているのかな?でもそれにしてはうるさいほどの音楽は聞こえてこない。まぁ、あとでいっか。
 ふと、ミクさんの隣に『鏡音 リン』と書かれた表札を見つけた。あぁ、多分新入りさんなんだろう。声かけてみようか。
 当然の如くチャイム音を鳴らすと中から出てきたのはミクさんより小さな女の子だった。後ろにミクさんが見える。
「あれ?ルカさん?」
 はいそうですけど…って。え?
「もしかして新入りさん?」
 リンさん(?)はハテナマークを浮かべている。
「あ、えっと。巡音ルカっていいます。ちょっと前からここに住んでいるんです。」
 家に上がりながらそう言うとリンさん(?)も自己紹介してくれた。どうやら彼女は逃げるようにしてここに住んできたらしい。詳しくは聞けなかったけど。
「ところで。この鏡だらけはなんなんですか。」
 台所や洗面所とかなら許せる。にしても殆ど鏡だらけなこの部屋は一体…。
「それはね…うむむぐぅ。」
 ミクさんがリンさんに口を押さえられた。まぁ、人それぞれ…とは言うけどちょっと気になる。特にあの『歩く都市伝説』とか。
 素直に諦めるとミクさんがポーチから何か取り出す。…CD?
「これ、ルカさんにあげようと思って。」
 ―ミクさんの出しているCDだ。
「実はこれ、余っちゃってどうしようかと思ってたんです。」
 そうなんですか。しかもご丁寧にサインまでつけている。…マニアに売れば良い値段で売れそうだ。でも少なくとも其処まで私は薄情ではないし、反対にミクさんの歌声が何より好きだ。ありがたく貰おう。
 礼を言うとリンさんはなんだか鏡をのぞき込んでいる。しかもぶつぶつと何か呟いている。え、何?“レン”?誰?
「あのぅ。」
「ひゃ!?」
 びっくりしたようだ。それに鏡には“リンさんなんだけどリンさんではない何か”が映っているし。何だか初めて心霊体験したこと思い出した。
「あれ、何ですか?」
『俺のこと?』
 ―!!!!…正に絶句って言う言葉が似合う。なんだか今日はいろんなことが起こりすぎる。フルコースとか真っ裸とか“これ”とか。しかも二人とも平常としているし。
「わたしも最初はびっくりしたよ~。」
 フォローしてくれるのは嬉しいんですけど…。正直目をそらしたいです。
「もうっ!レンのバカ!」
『え?俺のせい?俺のせいなの!?』
 正に真っ白な私。というか『歩く都市伝説』って“これ”のせい?こっそりミクさんに言うとそうだよって返された。なんだか頭痛くなってきた。寝たいです、はい。
「ちょっとルカさん!」
 目の前が真っ暗ってこういうこというのかな。

 この後、目が覚めたら自分の部屋にいたということを付け足しておく。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

とあるボカロ荘の一日 ルカさん帰ってくる編

ということでルカ編でした


一応常識人設定です、はい。
書いてて楽しかった

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投稿日:2010/08/07 16:31:20

文字数:2,453文字

カテゴリ:小説

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