ふわふわと金魚がビイドロの中を戯れている。
あの人は今夜、来てくれるのだろうか。。。
蘭の香りのする、この店にーーーー。
―蘭―
一夜限りの恋にするか、通い詰めてわっちのマブになるか、、、、。
それはお前さんが決めることで、わっちの決めることにありせん。
自分が気に入った客にはとにかく、冷たくする。差引勘定が、この界隈はとっても大事。そのために、いろんな習い事をするのが通例。そうやって、女を、磨く。いわゆる、普通の生活なんか、かなり前に捨てられた。わっちはここに売られた身。そう、ここは江戸一の豪華絢爛さを誇る、吉原。女の都で、女の墓場にありんす。
「いやぁ、今日も太夫は、きれいだねー」
「この美しさは、吉原どころか、日本一だろー」
観衆みなが、わっちを見つめる。わっちは、ここ吉原の数少ない太夫の一人だ。名前は音愛(オトメ)太夫。歌と芝居が好きなわっちに前例なくつけられた源氏名。ここまで、これた裏には、それなりの努力がある。太夫までの道は、この花魁道中のように美しいだけではない。泥沼のだまし騙され、よくある話だ。多くの女や、男の匂いがしみた店に、わっちの血がしみてる。蘭の花はどんどんと色を染めて、変えていく。その中で、どんなことでも、ある意味経験した。
-----そう。普通の、恋、らしい、縁らしい、縁も、わっちは感じたことがある。
それが、江戸一の庄屋。その嫡男。歌を一緒に歌うだけ。体の交わりがあったわけではないけれど、ほんの何度かの通いだけで、終わってしまった。
皆が、魅了する、この体、彼は、わっちに、こういった。
「そうだねぇ、音愛に、来世会えるなら、、、。俺だけのものにしたいねぇ、、、。」
月に光る、水色の瞳。来世を見ているの?何を見ているの?わからない。わからないから、、、わっちに触れてほしい、、、、。
思ってても言えないのが、花魁の性。ほんとの恋をしていい身分ではない。そう、花魁とはそういうもの。男を手玉に取って、くるくると夢を見せる。それが、花。蘭楼の一番の花、音愛の花。
金魚や、根を張れない、切り花、そこからはい出せない。そんな花。どんなに思い焦がれ、袖がいくらからみあって、糸を交えても無ずばれることは、ない。
あなたの書く手紙。文字の色と声は、ほんとにわっちを思ってくれてるのでしょうか?考えることも許されないのに、わっちはほんとに手前勝手な女にありんす。
2013年4月
「今月も、頼れる選手権は音那先輩か。」
「男性からすら人気がある。」
「イケメン、万能」
「その辺の女の子より下手したら美人だもんなぁ」
口々に言われるのは、今月の「仕事のできる人選手権」の結果。音那は今月でもう半年間も第一位を獲得している。上司も部下も納得の業績、気配り、すべてにおいてパーフェクト、、、なのに、浮いた話題一つない、いわゆるできる男。
「お前ら、まだそんなバカみたいなのにこだわってんのかよ」
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