『カイト』

マスターから名前を呼ばれると嬉しくてでも何故か胸が苦しくて…
原因が分からない。
検索をかけても異常なし

この苦しみはどうにか出来ますか―…



恋の蕾


「なぁカイト、次の曲さどんなのが歌いたい?」

マスターから新しく作ってくれる歌の相談。
歌える事が嬉しくて楽しかった。

「俺はマスターが作ってくれる曲ならどんな歌でも嬉しいです」

そう伝えるとこと顔を赤く染め照れ隠しをしているのか頭をガシガシ掻く。

「ならラブソングいってみるか?」

ラブソング…マスターが誰かを思って作る曲…
胸が苦しくて涙が溢れそうになる。

「俺頑張ります、じゃあ俺は邪魔にならないよう向こうに行きますね」

マスターを心配させたくなかった、でも暴走を始めた気持ちは抑えることが出来なくて…

「マスター…貴方は誰を想って作るんですか」

誰も居ない部屋に響くが木霊も無ければ返ってくる答えもない。
座り心地が良いソファーに体操座りで座る。
広めのリビングは寂しさを醸し出し落ち着かない。

「マスター」

膝に顔を埋め考えに耽り、いつしか眠りについていた。


暖かい夢を見た、俺の隣にはマスターが居て暖かくて、とっても落ち着いた。
夢ならもう少し甘えていたいと願いそのまま重石の付いた瞼を閉じた。



『…カイトそろそろ起きないか?』

聞こえるマスターの声はとても穏やかで、もっと聞いていたくて首を振る。

『しょうがないなぁ』

苦笑が聞こえ頭を撫でられる。
はっと目を開き振り向くとマスターの笑みが飛び込んできた。

「まっ、マスターっ!?」

慌てて起き上がるとソファーから落ちた。

「か、カイト大丈夫か?」

手を差し伸べ手助けしようとしてくれたがその手を取らずに立ち上がる。
心配そうに見つめてくるマスターに『なんでもありません』と言うのが精一杯。
痛み出した胸、高鳴る鼓動は止めようがない。


「カイト…具合でも悪いのか?」

心配そうな眼差しを向けてくるマスターを安心させたくて首を振るがマスターの笑みは翳ったまま…

「マスター…分からないんです…」

溢れる涙も痛む胸も高鳴る鼓動も…
苦しくて苦しくて…
貴方を想えば想うほどに…

「俺…壊れたのでしょうか…苦しくて、なんで泣いてるのかも分からなくて、マスター…」

視界が滲む、目に映るモノ全てが歪む。

「カイト…これ見てくれる?」

差し出された楽譜。
並んだ音符は優しい旋律、書き込まれた歌詞はラブソング。


『何もない空虚な僕の心《なか》
舞い降りた蒼が全てを変えていった
自分以外に何もなかった
僕だけの世界は硝子細工の様に砕かれた


蒼い髪を揺らし僕に笑いかけてくれた君
愛しくて抱きしめたくて、でも今の関係を崩したくなくて…
踏み出す事が出来なかった弱い僕
だから君を傷付けてしまうかもしれない
でも走り出してしまった気持ちは止められない

君が大好きだよ

何時までも僕の隣にいて
泣いて怒って、僕にだけみせて君の愛らしい笑顔を

君が大好きだよ』


目を通しマスターを見る。

「カイト、僕のために歌ってくれる?」

ニッコリと微笑むマスターに対して首を振る。

「俺歌えません…」

マスターの命はボーかロイドに逆らってはいけない、逆らうことが出来ないようプログラムされている。
マスターの気に障ればアンインストールは免れない。
分かってはいるけれどマスターが誰かに想いを馳せて作った曲なんて歌いたくなかった。

「コレだけは歌えません…」

しばしの沈黙
重い空気の中口を開いたのはマスターだった。

「なんで歌いたくないのか聞かせてくれる?」

怒りもせず笑って頭を撫でてくれた。

「俺マスターが俺以外の人を想って歌を作って、それを歌うのが嫌なんです…」

俯くしか出来なかった。

「カイト」

名前を呼ばれ、襲ってきた衝撃、それが抱き締められたことで生じたものだとしばらく経ってから気が付いた。

「まっマスター何してるんですか!?」

力強い腕に意味がないと分かってはいるが抵抗を見せる。

「カイトお前が好きだよ、ずっと俺のために歌ってくれよ」

肩口に顔を埋めてくるマスターからの告白。
見る見るうちに顔に熱が集まっていくのが分かる。

「あっあの、俺はボーカロイドで男ですよっ!?」

首を振って否定をする。しかし口に対して内心は歓喜に震えている。


「そんな事分かってるさ、僕はカイトを好きになったんだ」

強く抱き締められていた腕が緩み顔を覗かれた。

「カイトに送るよこの歌を」

『歌ってくれるかい?』確かめるように聞いてきたマスターに

「はいっ」

と元気良く返事をし笑みを見せる。
マスターもある笑みを返してくれた。

「さぁいこう、カイト」

差し伸べられた手を迷わず取った。
これからマスターと共に道を歩んでいくー…

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

恋の蕾

閲覧数:174

投稿日:2008/11/16 13:05:52

文字数:2,044文字

カテゴリ:小説

クリップボードにコピーしました