冬の風は刺すように冷たくて、息は白く、凍える手足を抱えながら喫茶店へ逃げ込む。
暖炉にくべられた火がゆらゆらと揺れて、体の芯を包み込むように暖める。
煎ったコーヒーの香ばしい香り。ブラジル、インド、アフリカ、遠い異国からの贈り物。
遠い遠い場所に思いを馳せながら、そっと一口すすると苦味とほんのりとした甘さが広がる。
ふいに静寂が訪れる。
窓の外を見ればフワフワと雪が漂っている。街灯に明かりが灯り、積もり始めた雪に反射している。
まぶたをそっと閉じ耳を澄ます。陽気な笑い声と囁かな密談。新聞をめくる音。お皿にカップが乗る.......カツンと音が鳴る。
静かな冬の夜に閉じ込められた、小さなこの場所で、ぬくもりと人々の息遣いを感じながら僕はそっと春を待ってる。
数回の寒波を乗り越えると次第に気温が上がり、山の尾根に積もった雪が溶け出して川へと流れこむ。
やわらかい日差しがキラキラ小川のせせらぎに跳ねる。アメンボやメダカを追い掛け回す子供たち。両手いっぱいにツクシを抱え、土手を走りまわる女の子たち。
瑠璃唐草が咲く、明るい陽だまりを見つけて僕は思わず寝転がる。何処からか飛んできたのか、たんぽぽの綿毛がふわふわと漂っている。
「春が来た目を覚ませ」そう煽るような南風に乗って、何処までも、何処までも飛んでいく。
やがて雨季が訪れる。シトシトと雨音が街中を支配し、カタツムリは微睡み、僕は街角に紫陽花を探す。
湿気を帯びた空気の中に、夏の気配をほんのりと感じる。雨上がりの空に虹を探す。木々の梢についた雫が太陽の光にきらめいて揺れている。
一夜一夜ごとに日が伸びて一日が長くなる。もうすぐそこまで夏は来ている。まぶたを閉じて脳裏に描き足す。あの特別な季節を。
夏の始まり 帰り道 少し遠回り 迷い込んだ裏路地 森へと続く
轍 夕立 みずたまり 向日葵 駆け回る陽だまり
夏の吹き溜まり そっと持ち帰り 舞い上がり 青い青い空へ手を伸ばし
夏の誘惑語り合い その終わりをまだ誰も知らない
小さな小さなきみの手と くるくる回る麦わら帽子と
蜃気楼に揺れる影 坂の向こうの 小さな丘へと
青い青い空に白い雲 廃線を辿り きみの街へと
屋根の上で微睡む子猫が 欠伸しながら僕らを見送る
風鈴、朝顔、軒下でうたたね またね 夏は続くね
明日も夏で 空が高くて 蝉の鳴き声 街中を包み込んで
やがて黄昏 ぼんぼりに誘われ 祭りの中へ君の手を取って
踊り戯れ 汗を流して 境内を駆け抜け 宵に酔いしれて
夏の始まり 帰り道 少し遠回り 迷い込んだ裏路地 森へと続く
轍 夕立 みずたまり 向日葵 駆け回る陽だまり
夏の吹き溜まり そっと持ち帰り 舞い上がり 青い青い空へ手を伸ばし
夏の誘惑語り合い その終わりをまだ誰も知らない
裏山に作った秘密基地 それぞれが宝物を持ち寄り
今日より明日 走りだす気持ち 少年はひたむき
水晶 水鉄砲 川遊び きらめく夏の日差し
畦道 用水路 田んぼ 小川 カワセミ アブラゼミ
何処までも続く線路 飛び乗った先頭車両
夏の奥へ奥へと 次の景色を待ちわびてる
山の頂き 寄せては返す水面のきらめき
いつまでも続く夏休み 空は何処までも広がり続ける
海鳥が弧を描き 水平線に日が沈み 長い一日が終わる
幾つもの夏を越え 大人になった僕ら
思い出は空気に溶け 雨になって土に染みこむ
秋が来て落ち葉に埋もれ 冬の雪の中で静かに眠る
春が来て雪は溶けて川へと やがて強い日差しが訪れ
思い出たちは鮮やかによみがえる
何度でも繰り返す 四季は巡り続ける
この特別な季節を僕はいつまでも待ち続ける
その終わりはまだ誰も知らない
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