またまた、今度は何事だろうか。随分いつもと雰囲気が違うでは無いか。いつもの通りに迷いご相談所に出勤したら、同僚のワカメさん達がザワ付いている。
何だろうと耳を澄まして聞いてみる。
「ダグダ王が来るってさ」
「え、私ダグダ王嫌い。っていうか、デ・ダナーン神族自体が嫌い。」
「私は好き。だってカッコいいし、頭いいし」
「まあ確かに魔法は上手いらしいからその点に関しては尊敬せざるを得ないけど、でも妙に気取っているって言うか
その感じが嫌い。というか苦手」
「気品があるとも言えるけどね。まあ、言葉なんてどうとでも言い換えられるからね」
「まあ、取り方に因るね」
…成る程…分からない。私には意味がほとんど分からなかった。
何者かがワカメの国に来るという事は分かった。
それから、その者は好き派と嫌い派に分かれるという事も分かった。
フランジェリムさんが何食わぬ顔で出勤してきた。
「おはよー」
「あのフランジェリムさん、何かがあるんですか、誰かワカメの国に来るって聞いたんですけど」
「あーそれか。ダグダ王の事でしょ」
「はい。そうです。そのダグ…ダ?の王様が来るって、小耳に挟んだんですけど」
「ダグダ王。あやつはなかなかの曲者でな。見た目良し雰囲気良し、おまけに魔法まで上手いと着たもんだ。完璧っちゅう訳よ」
フランジェリムさんは、歌舞伎役者風に言葉をキメた。
「わーそれはそれは、完璧人間ですね」
「人間ではないけど、神様だからね。神族、神様の族って書いて親族ね。アイルランド出身よ。アイルランドと言ったら随分日本から遠いけれど、偶々近くまで来たついでに
ワカメの国に寄ったのかね。」
そんな完璧はどこにでも居るもんだ。
私が人間界で教師をしていた時にもそういう生徒は大体学年に0.5人くらいは居たもんだ。
もう、人間界が昔の事がまるで小説で読んだ事のある心象風景の如きイメージとして脳内に収納されている。
あの日々は「リアル」だったのだろうか。今の方が「リアル」であるように思える。
まあ2学年に1人、完璧な人が居るのだ。
完璧だからと言って鼻が高くて嫌な感じと言う訳でもなく、教師受けも良いというまさに完全体!
そこまで来るともはや、人間として見る事が出来なくなる。
化け物的完璧人間。
そういう人が居る。
この場合、ダグダ王というのは神様らしいので、化け物的というか、ある意味化け物そのものである。
完璧で尚且つ鼻が高いちょっとむかつく人も居る。
まあ、色々な人が居るか学校生活が楽しくなるってもんだ。
脳内言葉遣いがフランジェリムさんの影響で歌舞伎っぽくなってしまっている…。
「でもね、」
フランジェリムさんが荷物を置いて、いつも通り仕事の準備をする為に棚の確認をし始めたときに
「表があれば、裏も有る。彼は貪欲で残酷よ」
そのとき何処からとも無く、ハープの音色が聞こえてきた………様な気がする。
これは空耳か?なんだか不思議な聞こえ方がする。
空耳か本当の音なのか、分からないくらい微かな音だった。
なぜこんなに騒がしい事務室でその音が聞こえているのだろうか?
微妙に頭の中で混乱している。
一体何処から来るのか、甚だ不明であった。
他のワカメさん達も同じ様に聞こえているらしい。
そのハープの音色に耳を澄まし始めた様で、事務室内が静かになった。
このハープの音色を聞いてしまったら、どうにかなってしまうとそう思わせる、
魅力的な音色であった。
ここは妖精の国の中である。
どんな不思議なことがあっても可笑しくない。
この音色を聞いてしまうと、記憶が無くなるとかなんとか不思議な事が起きるのではないか?
そう思わせる音色だった。
が、フランジェリムさんに何か特別な効果があるのかと聞いたら、そういうのは特に無いらしい。
うむ、素直にいい琴だ、あ、ううん。琴でなくて、ハープだ。
ハープの事を琴と脳内で思ってしまった事に寸分の恥ずかしさを覚えた。
一瞬変換して
「何か凄い上手なハープ」
私はフランジェリムさんに話しかけた。
「まあそうね。これがダグダ王のハープよ」
「これがダグダ王が演奏しているハープ」
「そうよ。」
「はーこれは…なるほどこれは完璧ですね。こんな上手いハープを弾けるだけで完璧ですよ」
「完璧だけど、やっぱり好き派と嫌い派に分かれるところよ」
「ねえ会いに行って見ませんか」
「えーダグダ王に?」
フランジェリムさん如何にも嫌だと言うような声と表情をした。
「フランジェリムさんは、ダグダ王嫌い派なんですか?」
「私は嫌い」
「そうですか」
私は、ワカメの国に来てからと言うもの少し元気で積極的になった気がする。
その時私が、フランジェリムさん無しで1人でダグダ王に会いに行こうだなんて思い立ったのはきっと、そのせいだったのだろう。

 その日仕事が終わって脳がとても疲れていた。
そんあ状態にも関わらず私はダグダ王に会いに行った。
夢の中を行ったり来たりする仕事なので、体は疲れないのだが頭が疲れるのだ。
糖が欠かせない。
商店が集まっている道で甘いお菓子を買って帰るのが常だ。
迷い子案内所から帰るときは頭の使い過ぎで頭が熱い。
ダグダ王が好きで、よく入る店があると、同僚に聞いたのだ。
その同僚はダグダファンだそうで色々知っていた。
聞いた所によると、そこのお店の鶏がらスープは、なかなか美味しいらしい。
ドンぴしゃりだった。
ワカメの国ではそれなりに有名な食べ物屋さんから出てくる所に出会ったのだ。
その周りに人集り(ひとだかり)ならぬワカメ集りが出来ていたので、
そこにダグダ王が居るのだと遠くからでもすぐ分かった。
ワカメ集りでなかなかダグダ王の姿が見えなかったが、ワカメの妖精達はは私よりも少しばかり背が低い事が幸いして
なんとか一瞬だがチラッとダグダ王の姿を見る事が出来た。
ダグダ王はイケメンなのかなと勝手に思っていたが、違った。
何だか腕が筋肉質で頑健な感じだった。その目はダグダ王見物も出来たし、新しいお店も知れたし今日はいい事が2つもあった。
その日ルンルン気分で眠った。
私はワカメの国に来て人間界で教師をしていたときより元気になっていた。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

第九章 正し過ぎた人 畑広美

ダグダ王とは一体何?
其の興味を其の儘(そのまま)行動に移す広美。
彼女はもう、以前の彼女では無い。
元気の在る、融通の効く人間に成ったのだ。
※小説「ワカメの国」は現在「KODANSHA BOX-AIR新人賞」に応募中。
※小説「ワカメの国」は現在「KODANSHA BOX-AIR新人賞」に応募中。
Yahoo!版電子書籍「ワカメの国」は此方
URL:http://blogs.yahoo.co.jp/wakamenokuni
です。

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投稿日:2012/02/14 03:23:53

文字数:2,552文字

カテゴリ:小説

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