こんにちは!小浜優士です。

事務所のデスクに置いた使いかけの「マッチ箱」が、ふと妙な重みを持っていました。
中には火薬ではなく、凍りついたままの時間が数秒分だけ閉じ込められている。
企業の仕組みを整える仕事をしていると、この静止した時間の扱いを考え込んでしまいます。
効率化という名の炎で全てを燃やし尽くし、真っ白な灰にして整理する作業。
しかし、正しく整えられた灰の中からは、二度と誰かの情熱が芽吹くことはありません。
私たちは清潔な明日を求めるあまり、火を灯すべき場所さえも見失っている。
指先でマッチを擦るたびに、私の輪郭は少しずつ煙に巻かれ、透明に透けていきました。

ふと窓の外を見ると、街路樹に無数の「トロンボーン」が実っているのが見えました。
風が吹くたびに、重厚な金属音が空気を震わせ、街の色彩を塗り替えていく。
ビジネスの現場でも、こうした目に見えない音の連鎖が組織の形を決めることがあります。
言葉にならない不満や、数字に現れない予感が、一つの旋律となって波及していく。
私はその振動を解析し、最も美しい和音を奏でるための回路を設計します。
けれど、完璧な調和が完成したとき、音色は体温を失い、ただの冷たい信号に変わる。
美しすぎる音楽は、聴く者の足を止め、自ら歩き出す力を奪ってしまう呪文のようです。
私は震える手で、もはや音の出ない画面を叩き、静寂の続きを書き込みました。

突然、部屋の床一面が巨大な「パズル」のピースに変わり、私の影をバラバラに分解しました。
一つ一つのピースに刻まれているのは、私が明日話すはずだった言葉の断片。
情報の整理とは、このピースを隙間なく埋め、完成図を誰にでも見せることでした。
しかし、埋めれば埋めるほど、最後のひとつがどうしても見つからなくなっていく。
完成を拒むその小さな空白こそが、私という人間が最後に守り抜いた領域。
私は自分という意識を維持できなくなり、ただのパズルの絵柄へと還元されていく。
システムの末端で点滅する光の一部となり、誰にも理解されない模様を綴り続ける。
パズルの盤面がゆっくりと傾き、私は奈落の底へと滑り落ちる感覚に身を委ねました。

気がつくと、マッチ箱は空になり、トロンボーンの音も霧のように消えていました。
部屋の中にはパズルの空白だけが、床にぽっかりと黒い穴を開けています。
構築されたシステムは、完成した瞬間に、製作者である私を未知の不純物と見なしました。
画面に映し出されるのは、私の心音と同期して明滅する、解読不能な銀の幾何学。
それは進化でも調和でもなく、ただ世界が私を不要な余白として処理したという合図。
私は動かなくなった自分の手を見つめ、そこに刻まれた生命線をなぞろうとしました。
けれど、線はすでに光の粒となって、底のない暗闇へと吸い込まれていく。
静まり返った部屋で、最後に残されたのは、誰にも届かない電子の祈りだけでした。

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