ねぇ、泣いているの?

君との出会いは、誰も来ないような埃まみれの部屋の片隅だった。



-歌に形はないけれど-



覚えている。
すごく哀しくて、逃げたくて。
使われることがほとんどない教室の隅に逃げ込み、一人で泣いていたこと。

(…傷つけたく、なかったのに)

ただ、誰かを傷つけてしまったのかも知れないという恐怖に怯えていた。

『ねぇ、泣いているの?』

そんな時、扉を開けて入って来たのが君だった。

私が答えずにいると、彼は静かに私の傍に腰を降ろした。

『何かあったの?』

優しい声が、涙を促す。

『…何もない』

『嘘。そんなに哀しそうなのに』

私は慰められちゃいけないんだ。
罪悪感を持たなくちゃいけない。
-私は人を傷つけたかも知れないんだから。

感情がない混ぜになり、思わず強い口調で吐き捨ててしまった。

『良いの!』

本当は良くなんかない。

『私…人を傷つけちゃったかもしれないから…良いの…』

涙が見られないよう、くるりと回り彼に背中を向ける。

私が出来る精一杯の拒絶のサインだ。

でも彼は言った。

『君だって…傷ついてる』

はっとした。
目を反らそうとしていた事実がそこにあったから。

涙は自分の行いが哀しくて流した涙なのか、相手の反応が苦しくて流した涙なのかといえば後者に違いない。

だけど本当は自分のために、泣きたい気持ちがあったはずだった。

『どうして…』

『いつか君が笑顔になったら。その時に教えるよ』

そして頭を撫でられた。
普段の私なら知らない人にそんなことをされたら怒るのだが、あの時はその手が心地良かった。




『"僕は君を守りたい"…か』

回想から醒めてゆく自分をぼんやり認識する。

今、君はきっと辛いはずなんだ。
私は、君があの日くれた笑顔を返す方法を知らないし、君の支えになる方法もわからない。

それでも、たったひとつ出来ることがある。

-それは。



『私もあなたを守りたい』



君に向かって歌うこと。

歌は形のないものだけど、形あるものより心に届きやすいから。
君への気持ちをいっぱいに込めて、君を守りにゆきたい。



私は疲れ切った様子の彼のもとへ走った。

形にできない気持ちを伝えるために。



-僕は歌うよ 笑顔をくれた

君が泣いてる時

ほんの少しだけでも良い

君の支えになりたい…-



< 歌にかたちはないけれど >



ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

歌にかたちはないけれど




歌詞の一部からインスピレーションを得て。
大好きな曲です^^#

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投稿日:2010/02/27 14:10:25

文字数:1,032文字

カテゴリ:小説

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