ガッシャーン
「きゃっ」
一瞬にして窓ガラスが割れる。
「お、ワリィワリィ」
同い年くらいの男の子がバットをかついで窓から入ってきた。窓ガラスが割れた音を聞きつけた人たちの足音がする。その足音を聞くなり、男の子は
「やばい。バレる。じゃあまたね」
と言ってた窓から走って逃げていった。
あの出来事から7年。私は忘れられずにいる。私の名前は、緑。生まれつき足が弱く、走ることはおろか、歩きことも難しい。
あの男の子は晶といい、あの出来事から毎日のように私の病室へきた。しかし晶と一緒にいられる時間も長くは続かなかった。晶が親の都合で引っ越さなければいかなくなったからだ。晶は私と同い年であったから、今頃は16、7歳だと思う。大好きだった野球は続けているのかな?私は今になってもベッドの上で生活している。
晶が引っ越してから何度か手紙のやりとりをしたが、私の方からやめてしまった。足の手術を行うために大きな病院へ転院することになったからだ。手術は体への負担が大きく、私は発熱してしまい3日3晩生死をさまよった。足は治ることはなく、医師が親に18歳になれるかすら怪しいと話しているのをうっかり聞いてしまった。
次の日からは両親は不気味なほど優しかった。私の唯一の楽しみは絵を書くことだった。両親は少しでも私の状態が良くなるよう調べてくれ、様々な手を尽くしてくれた。
しかし足は悪くなっていく一方であった。
数日後
ガラガラ
病室のドアが開いて誰かが入ってきた。ここから近い、柊男子高校の制服を着ている。とても身長が高く、入口で頭をぶつけている。
「じいちゃん。あっすいません。部屋を間違え…あれ?緑?」
聞き覚えのある声に懐かしさを覚えた。
「はい。星宮 緑です。もしかして晶?」
「うん。そうだよ〜やっぱり緑だ!」
「久し振り〜」
7年越しの再会に、話が尽きなかった。色々と話しているうちにあっと言う間に時間が過ぎた。時計の短い針が6を指した頃、晶が
「そろそろ帰らないと…」
と言った。私は
「気をつけて帰ってね」
と手を振った。晶は
「また明日。」
と言ってくれた。この言葉が妙に温かく感じられた。あと2年しか私は生きられない。いつも目を閉じるのが怖かった。もう目を開けられないんじゃないか。明日は来ないのかも。そう思っていた。
でも今は、明日が待ち遠しい。こんな風に思うのは何年ぶりだろうか…
期待を胸に私は眠りについた。
あれから、瞬く間に2ヶ月がたった。
晶は毎日のように来てくれた。
しかし、幸せな事ばかりでは無かった。祖母が他界してしまったのだ。祖母はとてもやさしく、私の尊敬する人だった。私の大好きな祖母がいなくなってしまった。あとどれだけ生きられるか分からないのに多くのものを失いたくない。もう何もしたくない。何をすれば良いのかさえ分からない。先の短い私が何故こんなにも多くのものを失わなければならないのだろうか。
「はは」
声を出した瞬間堪えていた物が溢れ出してきた。頬をつたい止まらない熱い涙。
「おばあちゃん。先に行かないでよ。」
祖母は土に還ってしまったのだ。そうだ、私も土に還ろう。
思い立ったが吉日。私は車椅子で近くの崖まできた。ゆっくりと足に力を入れ、立ち上がる。
「おばあちゃん。今行くからね。さようなら。」
海に飛び込もうとした瞬間、
「緑。待ってくれ」
急に腕をつかまれた。
「晶どうしたの?」
「それはこっちのセリフだ。お前のおばあちゃんのこと聞いたよ。大変だったな。でも、どうしても行くなら俺も一緒にいく。」
「何でそんなに優しいの」
「緑、お前のことが好きだからだ。まぁお婆ちゃんにみどりと一緒に居てくれって頼まれたのもあるがな。」
「ありがとう。晶、おばあちゃん」
「行こう。緑。」
「はい。一緒に」
「最後の一刻まで」
ふたりはしっかりと抱き合った。もう、二人は離れることはないだろう。12月の冷たい水が二人を優しく包み込んだ。

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最後の一刻まで

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投稿日:2026/05/12 21:16:13

文字数:1,636文字

カテゴリ:小説

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