A
朝食を抜いた車内に着く
沸き上がる汗の臭いに負ける
酔いそうな空間のなかで ふと見た車窓の向こう
人まみれ 時間が詰まる電車の
銀の縁 子供と目を合わせた
互い手を振り 少しだけ仲良しさ
B
みるみるうちに動く 鉄のかたまり ドアのきしみ
耳をつんざく 車笛(しゃてき)は 何よりも激しい目覚まし
ぎゅっとした両目をそっと開け
進行方向に顔をやれば
あらやだ まさかの 遭遇だった
S
澄んだ顔で見上げたその先の
知らない女の人の後ろ
君が 笑顔で 誰か見ていた
そんなことつゆともしらないと
あたしは鞄を握るけど
だめだね もう動けない
捕まったみたいだ
A
抜いた視線をかいくぐって
君はまた男の顔に戻る。
なんて言ったって 全て見えてるけど
見上げると届く車内アナウンス
「次は目的地 」 そう言うから
あなたとの時間はあと少しだね
B
見馴れた風景 同じ制服 まぶしい笑顔
君のそれを見つめるのは たまったもんじゃないけど
強く握る拳ゆるめ
再び視線向ければ
もうやだ 次こそ 間違いないよ
S
あたしがにらんでひるんだ時
君は一体何をしてたの
まあ いい、 あたしには 正直関係ないし
人混み引き裂いて君をつかむ
「一緒に降りて」と響く車内で
潤んだ女性の 泣き顔だけ
あんた罪は その顔だけで充分よ
C
あたしと君と女性で作る
知らぬ三人のスクラムは
すぐについた駅へと吸い込まれて
君は彼女と事情聴取で
あたしは駅員とちょっとはなして
「それじゃね バイバイ」
もうその顔やめなよ
S
まもなく始業の合図だ
勢いで地面駆け出す
もういい 今日のこと 忘れてやろう
コンビニの食パンくわえて
街角を曲がればすぐそこ
新しい出会いが待ってないかなあ
そんなこと無いと思いながら
目的地(スタート)に進むわ
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