仕事あがりの道端で、鳴き声が聴こえても猫なんて拾うもんじゃない。
ましてやそれが、すすり泣いてる雌猫だったりしたら猶更だ。
「ったく、明日になったら田舎にでも帰るんだな。路銀くらいだしてやるから」
タオルを投げてやりながら、自分は酒の瓶を取り出す。どうせ、都会に夢見て遊ばれた田舎娘だろうと見当をつけた理由は、この辺りで見ない、俺と同じ赤毛。それに、どこか懐かしい匂いがしたから。
「……ぇる、家なんて……無い」
ようやく聴こえた嗚咽以外の言葉が、つぅ、と背筋に落ちてきた。
「フン、話してみな。寝るまでの暇つぶしに聞いてやる」
身の上を語る女の、か細い声が身体に響いてくる。不自由しているつもりは無いはずだが、ぽつぽつと喋る唇がやけに紅く見えた。
目を逸らして、雨に煙ったネオンを見つめていると、不意に昼間殺した男のことが思い出される。
誰かは知らない。いかにも敵を作っていそうな顔には見えた。人込みですれ違いざま、刺すように撃った。
倒れていく身体の死に際の吐息が、今も生ぬるく纏わり付いている。ストレートで酒を呷っても、喉の奥に絡みつく重さ。
陰の気が強すぎる。
「……だから、帰るところなんてないんだ……」
女の声がしっとりと染み込んでくる。
ああ、やばいと思ったときには、もう手遅れで。
雨に濡れて冷えた身体と、その奥の熱さが、あまりにもアンバランスに響いてくる。互いの間を熱が行き来するたび、それは鼓動になって昂ぶっていく。
女の肌は白く、滑らかで。
明け方、先に起き出した彼女を呼び止めなければよかったと、今は思う。
そのまま気まぐれに消えてくれれば、ガラでもない感情に飲まれることも無かったのに。
こちらに出てきてから、こんなに他人と同じ時を共有したのは初めてかもしれない。
女の作る飯はお世辞にも上出来とは言い難かったが、毎日出てくる暖かい食事に、ぼんやりとこのまま堅気になるのもいいか、等と考え始めてもいた。
気まぐれに、街頭でパンを買う。
明日は朝から二人でゆっくりしようか。
ただいま、と扉を開けると、猫は姿を消していた。
出かけたのかと夜まで待つけれど、帰ってくる気配は無い。
ああ、なんだ。舞い上がっていたのは俺だけか。
酒に溺れて目を閉じると、寝床の残り香がやけに鼻に付いた。
そして夜明け前、着信音はザラりとした感触で俺の耳を打った。
sight of red ~to the red~
自作曲の補完SSです。テッドがコロっとはめられるまでの雑記的な。
若干そういう描写を含みます。
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