スケッチ※1『くすり屋』
(客が店内に入ってくる)
店員:いらっしゃい
客:熱っぽくて、鼻水が止まらないんだ。風邪を引いたと思うから、風邪薬をもらえるかな
店員:わかりました。これなんか、お勧めです(と、正露丸を出す)
客:いやぁ、これはよく効くよね……ッて、これ風邪には効かないだろ!
店員:いやいや、お客さん、舐めてもらっちゃ困りますよ。私、この道50年でしてね
客:え? そんなに歳とって見えないけど……
店員:先月代替わりしまして
客:それじゃ新人だよね、まだ!
店員:子供の頃から家の台所を遊び場にしてきたものです
客:いやいや! 店じゃなくて家の台所? 全然関係ないだろう!
店員:ですから、私くらいのベテランになると、一目でお客さんの状態がわかるのですよ
客:いや、だから先月からなんだろ? 台所が遊び場だったんだろ? いいから風邪薬出してよ。明らかに風邪の初期症状なんだから
店員:本当に……ただの風邪だと思っているんですか?
客:え?
店員:初期症状が風邪に似ている病気は沢山ありますよ? 素人判断で風邪と決め付けて気づいた時には手遅れ……なんてことはよくある話です
客:そ、そう言われると……何だか不安になってくるなぁ
店員:熱っぽいのと鼻水、他に何か気づいた事はありませんか? どんな些細な事でも重要な手がかりになりますよ
客:そう言えば……最近疲れやすいというか、だるさが抜けないような……
店員:他にはありますか?
客:それに、肩こりもひどい気がする
店員:なるほど、分かりました。お客さんには今、元気が必要なんです
客:いや、元気って言われてもね……
店員:お任せください。一発で元気のでる白いこ――
客:ハイ、ストップストーップ! なんか危ない事言い出そうとしてなかったか?
店員:真っ白な小麦粉ですよ?
客:薬でも毒でもなかったよ!
店員:プラシーボ薬と言いまして、信じて飲めば――
客:それ、先にバラしたら何の意味も無いよね。あぁ、もう! とにかく風邪薬! か・ぜ・ぐ・す・り!
店員:はぁ、そうですか。それでは世紀末製薬の『ケンシロン』なんてどうです?
客:なんだか変な薬が出てきたよ。それに胃腸薬っぽい名前じゃないか、それ?
店員:いやぁ、風邪にもよく効きますよ。一錠で楽になります。風邪ごと、ひでぶ! ボンッ! てなもんです
客:「ごと」? 今、「ごと」って言ったよね!? 風邪と一緒に人生も終わるようにしか聞こえないぞ!
店員:同じ会社の『ラオウエース』も、天を目指す効き目です
客:まだ人生終わらすつもりはないよ。ちょっとちょっと、まともな薬ないのか、この店は。薬屋だろ? ドラッグストアなんだろ?
店員:いえ? うちはドラッグストアじゃありませんよ。ははぁ、お客さん、勘違いしてましたね
客:じゃあ表の看板は何なんだよ。『くすり屋』って書いてあるだろ
店員:はい、そうです。『くすりと笑う』の『くすり』屋です
客:え? なんだい、そりゃ?
店員:お客さんにくすりと笑って頂いて元気になってもらうと、まぁ、そういう商売です。薬は単なる小道具ですね
客:なんだいそりゃ! とんだ無駄足だった訳だ。それに(一人称)、笑えてないよ!
店員:いえ、これをご覧頂いている方が
客:見てる? 誰が?
(笑い声)
店員:ほらネ
客:だめだこりゃ
(終わり)
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