キリギリスのジョンはその日も愛しいマリーに宛てて美しいバイオリンの音色を響かせていました。マリーは気のないそぶりでそっぽを向いていますが、マリーもまたジョンのことが好きだったようでその場を離れようとはしませんでした。
そんなマリーがある日突然いなくなりました。ジョンがいよいよプロポーズをしようとしていた矢先のことです。ジョンは来る日も来る日もマリーを探し回りバイオリンを弾き続けました。
そしてマリーを探し出せないまま冬を迎えました。ジョンはそれでも冷たく凍える手でバイオリンを奏でていました。食べ物もなく痩せ細った身体でジョンは最後の力を振り絞ってマリーを呼んでいます。するとそこへ、一匹のアリが地面から顔を出してきました。
「やあ、哀れなジョン。そのままでは君が死んでしまう。僕たちの巣で暖まりなよ」
ジョンはそれでもバイオリンを弾き続けましたが、やがてその場に倒れてしまいました。
ジョンが目を覚ますとたくさんのアリたちが手を叩いて喜びました。死にかけていたジョンを巣に運び入れて介抱してくれていたようです。アリたちはまたすぐさまに温かな野菜のスープを持ってきてくれました。
「ジョン、これを食べて元気になっておくれ」
ジョンはそのスープを一口ずつ噛みしめるようにいただきました。アリたちの親切に涙がとまりませんでした。
「ありがとうありがとう」
「礼なんかいいさ、みんな仲間なんだから」
ジョンはスープを食べ終わると安心して眠りにつきました。そして次に目を覚ましてトイレを探しに部屋を出たところ、別の部屋でアリたちが話し合っている声を聞いてしまったのです。
「これでこの冬は乗り越えられそうだな」
「ああ、でもジョンにはもう少し太ってもらわないと。ウチは子供たちが多いからな」
「そうだな、マリーはもう頭しか残っていないしな」
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