―会いに行こう。哀れなあなたを救う為に。
『時が満ちた時、お前を迎えに行こう』
ここ最近全く同じ夢を見る。迎えに行くって何だろう。
わからないまま時は過ぎていく。
「行ってきまーす」
いつも通りに少女は登校する。
黒くて長い髪は高い所で結わいても腰まである。
少女が着ているのは紺のセーターに白のワイシャツ。赤いネクタイとスカート。これは公立雨宮高校の制服である。
少女の名は舞風美姫。現在高校3年生。世に言う受験生である。しかし美姫は受験の事など全く考えていなかった。何故ならここ最近同じ夢を見るからだ。
『時が満ちた時、お前を迎えに行こう』
誰が言ってるのかわからない。いつも耳元で囁かれるだけの夢。普通なら流すが、毎日見続けては何か本当にあるんじゃないかと思ってしまう。
「お迎えに来てくれるならとっとと来てくれないかな?」
正直受験は嫌だ。どうにかして逃げたい物だがどうやって逃げられようか。
「何がお迎えよ」
背後から聞こえた声にビクリと美姫は肩を震わせ、恐る恐る振り返る。
「榊原…」
下ろした髪は腰まである。美姫と同じく雨宮高校の制服を着ている。違うと言えばスカートを折っている事。
彼女は榊原雅。小学校からの付き合いだが何かと美姫に突っ掛かって来る。
「あ!待ちなさいよ!」
こういう時は逃げるに限る。当然榊原も追いかけて来る。
「今日も使いますか…」
美姫には生まれた時から不思議な力があった。それは風を操る事。
角を曲がるとすぐに全身を風に包ませて瞬時に学校に向かう。
「撒けたかな?」
勿論皆にこの力は内緒。学校の少し前で止めて普通に歩く。
ただ何故か榊原には知られているらしい。何とかして自分を暴こうとしている。
振り返って榊原がいない事を確認すると安堵してまた学校に向かって歩き始めた。
「1911年、ついに我慢出来なくなった中国はついに…で日本政府と対戦する事になりました。これを日中戦争と言います」
いつものように授業を受ける。前では教師が教壇に立って日本史を教えている。
美姫もいつものようにペンを走らせてノートに書き込んでいく。
そしていつものように後ろから榊原の刺さる視線を感じる。
何で懲りないんだろう…。
榊原に若干の呆れを感じていた。しかしそれでふと思う事がある。何故私は風を操る力を持って生まれたのだろうか。
他にも不思議な力を持っている人がいるならば悩む事も、隠す必要も、榊原が自分を睨む事もなかった。
もし、この力を持って生まれた意味があるのなら知りたい。
そう思っても教えてくれる人はいない。榊原も知る筈がない。だから自分で答えを探すしかない。
「ふわぁぁぁ…」
考えてたら眠くなって来た。欠伸をした美姫は机に突っ伏す。暫くして眠りについてしまった。
『時が満ちた時、お前を迎えに行こう』
ああ。またこの夢だ。
暗闇の中に私は一人でいた。耳元で誰かに囁かれる。振り返ってもその姿はない。
いつもならずっと囁かれて終わりだ。しかし今回は違った。
目の前に淡い光が現れる。それは段々と大きくなり、人の形となる。
現れたのは青年。薄い青の髪に同じ色の目。肌はとても白い。髪と目と同じ色のマントを羽織り、金色の冠をしている様はどこかの国の王である事を思わせる。
「あなたですか?私を迎えに行くと言っていたのは」
「いかにも。私は天王。ヒデン ワールドを統べる者」
「ヒデン ワールド?」
「私が治めていた世界は殺される限り死ぬ事も老いる事はない。言わば人間の理想郷」
「その王が私に何の用ですか?」
「帰って来てほしい」
「はい?」
いきなりの要求に美姫は思わず聞き返す。
「ヒデン ワールドにはお前が必要だ」
「い、いきなり何ですか!?やっと姿現したと思えば帰って来てほしいとか、訳がわからない!」
「確かにいきなりこちらの頼みを言うのはおかしかったな。実は…」
その時だった。
パキンという音が二人がいる空間に響く。
「…時間か」
何かを察知した天王はスッと身体を光らせ、姿を消す。
「ちょ…待ってよ!」
美姫は手を伸ばすがその前に天王は消えた。そして、闇は崩れて目の前は真っ白になった。
「舞風さん。舞風さん」
名前を呼ばれて美姫は覚醒する。そして自分が寝ていた事に気付き、顔を上げて手を当てる。
視線を移せば教師がこちらを見ていた。どうやら名前を呼んだのは教師のようだ。美姫が覚醒すると満足したのか授業を再開した。
美姫は慌ててノートを書き写しながら先程の夢の事を考える。
今回は少しだけ発展した。天王と名乗る男が現れた。もしかしたらこれから先もまた発展するかもしれない。まだあの男には聞きたい事がある。会って色々確かめたい。
夜にまた出てほしいと思いながら美姫は残りの授業を過ごした。
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