春が私のスカートを揺らした。
やけに晴れた正午。ぼんやりと欄干に体を寄せ、ただ街を見る。どれだけ心地よい風が吹こうとも、どれだけあたたかい光が降ろうとも、冬のままの心が拭えるはずもなくて。重く川底に沈んだ私を置いて、街の人々はせわしなく動いている。
この橋に来たのは雪がしとしとと降る冬の日、君と一緒に来た時がはじめて。散歩して迷い込んだ末に見つけた、夕日の見える橋。二人で今と同じ景色を眺めた。私の短髪とは違う、つややかな黒髪をなびかせる彼女は夜に溶けてしまいそうで。雪が積もったら雪合戦でもしようとか、春になったらお花見をしようだとか、夏になったら海で泳ごうだとか。この場所でたくさんの約束を結んだ。
けれど君との約束は桜吹雪に溶けていった。
君は独りでに旅立っていった。何も言わずに、そんな素振りを見せずに。ただいつも通りのさよならを交わしたあの日が、君の物語の登場人物「私」の最後のセリフだったなんて。いつからか君の湖底に誘われた私は、そこから戻れなくて。摑んで離さないまま、その湖は水を失くしてしまって。残されたこと、許さないから。償いとして、君に花を降らせるから。どうしようもなく暇な場所で、花しか見ることができないはずだ。私が煙を漂わせる華を咲かせているうちは、ずっと。一人さみしく――君にとってはさみしくないかもしれないけれど、その場所にずっと居ることになるだろうから。だけどその花が降らなくなった時、私は会いに行くから。
いつしか空は曇天となり、ぽつぽつと雨が降り始める。雨粒が服を濡らし、次第に肌へと染みわたってゆく。さらさらと降る雨は、ざあざあと音を立てて流れる川面に消えてゆく。
私は裸足で欄干に立つ。足がもげて君のところに会えなくなるのは嫌だから。
両手を縛った。腕がもげて君を抱きしめられなかったら嫌だから。
カメラをポケットに仕舞った。君の笑顔を見てほしいから。
記憶を頭に焼き付けた。思い出話に花を咲かせたいから。
風が背中を押す。
空が離れていく。雨粒が私の手をつなぐ。
春よ、どうか私を裂いて。降り注ぐ雨は私の記憶を流してしまうだろうから。
雨よ、どうか私と泣いて。春色の風が私を嘲笑っているから。


今年初めの春雷が聞こえる。
花が哂っている。
雨が明く。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

あゝ明く春雷

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投稿日:2026/05/02 20:03:56

文字数:948文字

カテゴリ:小説

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    2026/05/12 13:16:49

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