不安で押しつぶされそうになる
嫉妬で自滅しそうになる
弱音でぬくもりが欲しくて泣きそうになる


気付いたら

服のままシャワーを浴びてた。








このまま死ねたら楽なのに……




「死にたい」




呟いた言葉は、張り裂けそうな胸の隙間に"コトン"と響いた。









小さい頃から、心臓が弱くて何かにつけて親から制限をくらった。


心底好きになったあの人は、あたしに痣と痛みばかりをくれた。




それは、今も変わらないのだけれど







まぁ、今もその人に縛られちゃってるんだけど。







シャワーで水浸しになった体は、この前折られた鎖骨にひどく響いた。

「……イタイ」




どーせなら、いっそのこと



「殺してくれたらいいのに」








生温い温度に消えてなくなれたらいいのに。












ドアの開く音





ガンッて大きな音が響いて、うなだれてた頭を鷲掴みにされて頭を持ち上げられた。


その無作為な行動





あぁ、ほんといっそ殺してよ。


上を向かされて、シャワーのお湯が鼻や口から気管に入ってむせて死にそう。



もういいよ、慣れたから。









段々、意識は薄れて気が付いたらお風呂場で死体みたいに転がったあたし。



なんだか、頭蓋骨が痛いからまた殴られたんだろう。

視界も狭いし

なんか右目の周りだけ熱い。




もういい。



少しだけ、指先に力を入れて鏡を傾けたら右目が腫れたあたしが映った。




このまんま死んじゃえ。








足音が響いてる。

遠慮がちにドアが開けられた。
鍵を差し込む音がしなかったから、あいつ開けっ放しだったんだろう。



「ゆーり?」


名前、呼ぶ声 聞こえる。


りぃ。


「…りぃ…………」


囁いた声をしっかり聞いてくれたりぃは、バタバタと足音を響かせてお風呂場に駆け込んで、死体なあたしを見つけてすごく複雑な顔をして姿を消した。






何にも考えたくない







「ゆーり!!!!」




タオルケットであたしを包んで、体を拭いてまた、新しいバスタオルであたしをくるむ。



部屋のソファに、座らされて傷だらけの腕に抱き締められる。



薬を塗られた右瞼。
眼帯がつけられる。

鎖骨も湿布薬が貼られて、包帯が新しく巻かれる。





「ゆーり、うちに行こう…ほんとにあの人のこと好きなの?……このままじゃ、ゆーりが死んじゃう…」


「ゆーりが死んだら、あたしどうしたらいいの…」



膝の間に顔を埋めて見上げてくるりぃ。


可愛い




違うよ

あたしは、今

あたしの世界は
りぃが中心で回ってるよ。




いっぱい傷ついたその左腕もすごく愛しい。


新しく血が滲むガーゼに少し触れて『また切ったの?』って優しく聞く。


「ごめんなさい」って謝るりぃの頭を撫でて「いいよ、痛くて我慢出来なかったんだよね。」って、ガーゼの上からキスをする。

愛しくて仕方がない。


ねぇ、あたしが男に生まれればりぃを抱きしめて、甘やかしてキスをして
そんな風に、笑えたかな?

こんな傷つくことなんて、なかったのかな?


そしたら、りぃを救ってあげられたのかな?



そしたら、あたしは救われたのかな?









「ねぇ、ゆーり帰ろ」

此処じゃない場所へ

伸ばした爪をりぃの手に食い込ませる

歪む表情
痛む喉

血はぬくもりを持って盛り上がる


かえれない






「好き、なんだよ。たぶん」

あいつのこと


分かんない
分かんないよ


愛ってなに?
好きってなに?
優しさって、家族って、恋人ってなに?




あたしはなに?




ただ、見た夕焼けが茜色で


りぃの涙が膝に沁みて


痛くて
怖くて
温かかった。



手放すことが怖いの


君を
あなたを
あたしを



君が手放したいと望む命にあたしはしがみついていて
あいつが手放したいと思っている世界であたしは生きている



ただ、まともな時にだけ見せるあいつの『悠里だけを愛してる』を支えにして




あたしが愛してるのは
あたし
きみ
あいつ

世界


すべて



すらりと長い白い腕を引っ張ってただ、ただ口づけをした。


君があたしを愛してくれますように




いつかあの茜にあたしは消えたい



そう願いながら









end

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茜に消える

なんか、生きてるって痛いです。

閲覧数:58

投稿日:2011/10/04 19:37:28

文字数:1,900文字

カテゴリ:その他

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