「おかえり…ってどうしたの?!その傷?」
 一見メイド服に見えるヒラヒラな服を纏ったカイトに似た女性が言う。
「カイコ姉さん、ただいま。」
 擦り傷や殴られた後がくっきりと残るミクオは手をヒラヒラとさせていた。
「どうせ自業自得だろそれ。」
「っ、はは。弟は厳しいねぇ。」
 空元気でレンにそう言うとミクオは家に上がる。ここが鏡の世界なのだ。風景は全くリン達の住む世界と同じなのだか地面だけが水で出来ている、不思議な空間なのだ。ただ彼らはそれを不思議とは思わず、反対に当たり前だと思っているのだ。


「んで、どれだけオレ達を心配させたと思ってんだ?」
 涼しそうな格好をするメイコに似た男性―メイトの前でシュンとするミクオ。
「もうホントすんませんでした!」
 正に頭が上がらない、とはこういうことを言うのだろう。土下座して何度も謝るミクオの姿にカイコは口元を抑えてクスクスと笑っている。レンは興味がないようで携帯ゲームに夢中になっている。
「それに。レンから聞いたんだがまた女の子に話かけたんだって?!」
「向こうの女の子が可愛くってつい…。」
「つい、じゃないだろう?!お前はいつもいつも向こうの警察に何度世話になったんだと思っているんだ?!」
 その時、タイミング良くドアを開く音がした。風呂上がりなのだろう、寝間着を着てバスタオルを首に掛けたルカに似た男性が入ってくる。
「あれ、クオ。還ってたんだ。」
「ルキ!君なら分かってくれるだろう?!」
「何が?」
 ルキはそう言いながらバスタオルをタオル掛けに掛ける。
「ほら、俺のこととか…。」
 だがルキは無視して冷蔵庫に手をかける。目当ての飲み物を取り出す。
「クオにとってはいつものことでしょ?」
 とうとう抑えきれなくなったのか、爆笑し始めるカイコ。レンはゲームを止めると
「クオ兄、もう諦めろ。」
「そんなぁ~。」
 がっくりとうなだれるミクオ。それと同時にレンはポケットから手鏡を取り出す。
「リン、アレ聞くか?」
 わざとミクオが見えるようにして小さな声で言う。
『いいよ。あんな人。』
「だろうなと思った。」
 肩を叩かれるレン。ビクッとして後ろを振り向くとミクオがいた。手鏡の前のリンを見ている。
「あれ、君この間の…。」
 パタリ。手鏡を閉じてミクオの顔面にパンチを一発入れた。ミクオは仰向けに倒れる。床に頭を打ち付け
「う~ん、星がいっぱいみえるぜ~。」
 頭の上にひよこやら星やらが回っているミクオにその頬を笑いながらツンツンと触るカイコ。
「メイ兄、どうしときゃいいんだ?」
 ミクオを指す。
「とりあえず寝かしとけ。」
 レンはカイコを連れるとミクオをそのままの状態でほったらかした。


『んで、なんでクオ兄がまたそっちにいるんだ?』
「え?良いじゃないか。」
「こっちは迷惑なんですけど。」
 要約するとリンが起きると彼はまた“こちら側”にいたのだ。ジト目でミクオを見るリン。
「お願いだから還って下さい。」
「イヤだねぇ。たとえ君のような可愛い子ちゃんでもそのお願いだけは聞いてやれないんだよなぁ。」
『そんなこと言うからメイ兄怒るんだよ。』
 コンコン、というよりドンドンという方が合っているのだろう。玄関のドアを叩く音がする。―メイコが来たのだろう。彼女はチャイム音を嫌い、使おうとしないのだ。
「隠れてて。」
 レンは鏡から姿を消し、ミクオは近くの押し入れに隠れる。
「なぁに?メイコさん?」
 二人が隠れたのを確認してリンは玄関のドアを開ける。
「これ余っちゃったから上げようかと思ってさ。」
「ホント?ありがとう!」
 渡された物は煮物の入った底の深い皿だった。蓋をしているため中は見えないが。
「じゃ、それだけだから。」
「あの、メイコさん?」
 呼び止めるリン。
「入れ物はどうすれば…。」
「あ、それ?返さなくても良いよ。どうせもう使わないし。」
「あ、そうなんですか。」
「うん。じゃね。」
「じゃぁね。」
 バタン。ドアが閉まると同時に二人も顔を出す。
「なに貰ったの?」
「開けてみようか?」
 蓋を開けると肉じゃがが入っていた。だいぶ時間が経ったのだろう、見るからにしてしょっぱそうだ。
「うお、冷たっ!」
 ミクオはその汁を少し指に付け舐めていた。
「そりゃそうでしょ。」
「でもこれ、ちょっと甘すぎない?」
 味を確かめるように考えながらミクオは言う。
『そういやクオ兄って味にはすごくうるさいんだっけ…。』
 肉じゃがの入った皿にまた蓋をして冷蔵庫に入れるリン。
「そうなの?」
「なんてったって俺は美食家ですから。」
『ただ単に“女の子の手料理”が好きなだけだろ。クオ兄の場合は。』
 腹にパンチでも食らったかのようにグヘェと声を出す始末。
「す、するどいねぇ。」
『俺は当たり前の事言っただけ。』
 チャイム音が鳴る。ハッとしてリンは
「還った方が良くない?」
「え?なんで?」
「ルカさん来るし。」
 途端に真っ青になるミクオ。
「か、還ります!還りますよ!」
 あの時のことでも思い出したのだろう、彼は一目散に鏡の世界へと帰って行った。


 ドアを開けるとやっぱりルカだった。
「遊びに来たよ。」
 そう言って彼女は笑顔になった。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

とあるボカロ荘の一日 『歩く都市伝説』と鏡の住人編の後日談

番外編?なのかねこれは

これでもここのミクオは三枚目設定だったりするんだけど…
いかせられるかね?自分

まぁ、いっか

閲覧数:128

投稿日:2010/08/08 05:44:55

文字数:2,183文字

カテゴリ:小説

クリップボードにコピーしました