俺も少女になってしまうのだろうか? そういうことも浮かんではきたが、考えてもどうしようもないと思った。
あごに手をあてると、今朝はまだ剃っていない生えかけの髭の感触が指の腹に伝わってくる。

ふと、朝食を食べる前に起こった出来事を思い出していた。
未来に平手で頬を打たれたことだ。
原因は、俺の部屋に少女がいたから。
未来から見れば、親父がいない部屋で俺が少女と二人きりで過ごしていたように見えたんだろう…未来もそれにそっくりな少女になっていたにもかかわらず。
昔から未来は、俺が他の異性と親しくしていると機嫌がとても悪くなる。
理由は、むかつくから、らしい。
小学生の頃、別のクラスの女の子からバレンタインデーにチョコレートをもらって得意気になっていた時、未来の掌が飛んできた。
それ以後も…。
恋人というものと過ごした甘い思い出が俺にないのは、そういうのも関係していると思う。

その未来は今は何を考えているんだろう。
少し前までは俺や親父と同じように気持ちがたかぶっていたようだったが、今は普段よりもずっと静かというか、上の空といった感じだ。
いつもなら俺よりも早く朝食を食べ終えるのだが、今はまだ食べかけのトーストを手に持ったままだ。

これからどうすればいいんだろう。
未来も俺も朝は時間に余裕があるほうだが、それでもあと少し時間が経てば仕事に行かなければいけない。

色々なことをぼんやりと考えていると、外を眺めていた親父が何かを見つけたような、おっ、という声を出した。
未来に続いて窓辺に近寄り、未来の背中越しに視線を追うように見下ろすと、緑色のフェンスで囲まれた何台もの車が止まる舗装された駐車場の、傍らに走る狭い道路に、手を繋いで歩いている2人の少女の姿があった。
花柄や白色の肩をだしたブラウスっぽい服を着ていて、それにチャコール系や黒の濃いめの色のパンツやスカートを合わせている。
服装だけ見たら気になるところはないが、ただ2人ともミディアムヘアの同じ髪型をしていて、髪の色が共にオレンジ色だった。
体型も差がないように見える。
こちらの方に向かって歩いてきているが、距離が少し離れているし見下ろしているせいか顔ははっきりとはわからない。
それでもなんとなくわかった。
あの2人は同じ顔をしていて、そしてそれはたぶん、今の親父や未来とそっくりなんじゃないかって。


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【小説】俺と70億の鏡音リンちゃんと激しく降りそそぐ流星群(11)

ある日、突然、世界中の99.9999%の人間が少女(鏡音リンちゃん)になってしまった。
姿も声もDNAも全て同じ、違うのはそれぞれが持つ記憶だけ。

混乱に陥る人間社会の中で、姿が変わらなかった数少ない人間の1人である佐藤悟は…というお話。


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投稿日:2011/09/05 00:49:54

文字数:995文字

カテゴリ:小説

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