救護テントに付いたのは連絡を受けてから15分程経った頃だった。ベッドの上で座っている緋織とその脇に瀬乃原彩矢の姿が見える。こちらの姿を認めて輝詞が口を開いた。

「館林さん、早かったですね。」
「緋織の様子は?」
「貧血みたいです、今は落ち着いていますが彩…瀬乃原さんの話だと急に具合が悪くなったみたいですね。」

緋織を見遣ると、キョトンとした表情でこっちを見て、それから輝詞と瀬乃原をキョロキョロと見た。

「緋織ちゃん、大丈夫?」
「えっと…私、先生に送って貰いますから、お2人共お祭り行って来て下さい。心配掛けてごめんなさい。」
「えっ?でも…。」
「お願い出来ますか?先生。」

緋織はそう言って笑顔を見せた。顔色がまだ少し悪いが意識もはっきりしている様だし、この子なりに気を利かせようとしてるらしい。それに乗る形で2人を救護テントから追い出した。

「はい、行った行った。」
「わわっ?!」
「ひ、緋織ちゃん、本当大丈夫?」
「ちゃんと送ってくから、心配後無用。」

少々混乱していたが、やがて2人は祭りの人ごみに消えて行った。と、不意に首筋に手が置かれた。驚いて振り返ると、少し緊張した面持ちの緋織が立っていた。

「あの…幸水さん、ですよね?プロジェクトリーダーの。」
「え?何言って…頭でも打った?」
「傷の位置が違います、それに先生は私が何処に触れても驚いたりしません。貴方は変装が得意だと聞いてますけど所詮10分程度では限界があります。」

16歳とは思えない程強い瞳だった。確信と同時に強い信頼が見える。しかし廿楽先輩も一体どう言う育て方してるんだ?何処に触れてもって、何処まで触らせたんだあの人は…。まぁ、そんな事は良いか。

「驚いたね、今まで本人と動物以外で見破った奴居なかったんだけど。それで?何で判っててあんな事言ったの?」

そう言うと少し俯いて迷いながら言った。

「私のせいで2人に迷惑掛けたのは事実ですし、輝詞さんの為に来たのかと思って。」
「気ぃ利かせたんだ?」

何故か少し顔を赤く染めてこくこくと頷いた。こんな事で赤くなるのか、さっきまでの大人びた態度とはまるで別人の様に子供丸出しで、年相応に見えた。一体どう育てればこんな娘になるんだろうか、成程確かに興味深い。

「まるで若紫だな。尤も光源氏が多いみたいだけど。」
「え?」
「旋堂さんに、廿楽先輩、それに侑俐…ああ、真壁君もかな?随分豪勢な事で。」

カッと赤くなって振り上げた手を捕まえると自然に笑いがこみ上げた。

「いや~実に良いゲームになりそうだ。ごふっ?!」

取り敢えず躊躇無く股間を蹴るお姫様ってどうなんだろう…と、蹲りながら思った。

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いちごいちえとひめしあい-61.複数の光源氏-

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投稿日:2011/10/18 12:46:26

文字数:1,127文字

カテゴリ:小説

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