ただっじと見てるだけで、同じ言葉を繰り返す。そして、人は狂気に埋まる。だなぁんて、噂だけの話しだ。現実に考えて、鏡に向かって「お前は誰だ」だなんて何回言ったところで自分には変わりない。脳内が「鏡に映っている顔は自分だ」と判断しているのだから何度言っても無断なんだ。
自分が分からない奴なんて居るわけがないだろう。
人生に疲れた人?
それは違うよ、それはただただ現実から逃げたいだけの人だ。
「何がしたいの?」
「何が出来るの?」
「何も出来ないの?」
「今に刺激が足りない?」
「生きるのが嫌なの?」
「でも死ぬのも嫌なの?」
そんなの考えただけで何が変わる?現状は変わらずにまた1日が過ぎていくだけじゃないか。人生なんて、学生は勉強して大人は仕事に行く。生きる為だけに生活していく世の中に変化なんて求めちゃだめなんだ。
求めたところで、変わらないんだ。
「お前は、誰だ。狂気だ。鏡気だ。今日は。」
言葉の羅列は繰り返されるだけで、今日も変化はない。小さな鏡の中に収まった顔は今日も「つまらない」と言っている。変化を求めているような顔だった。その顔を見るのが嫌で嫌で、今日も数十分で言葉を止めて部屋を出た。
部屋に置かれた、数点のタンスの引き出しを引いては中をごちゃごちゃに掻き分けた。1段目の引き出しには下着系。2段目から下はシンプルな私服がズラリと入れられていた。そして一番下の引き出しには、いわゆる部屋着系らしき衣類が詰められていた。タンスから衣類を出して足元に山を造っていく。どうもハッキリするような服がない。
やっと良いのを見つけて服を着た。後ろに大きく白字で「Who am I?」と書かれた黒のTシャツに、下は普通にジーパンを履いた。白と緑のスニーカーを履いて家を出た。
何もない町を範囲の狭い視界に押し込んでいく。来た道を振り返りながら小さな公園までたどり着いた。かなりの道を歩いてきたつもりだが、実際はそこまで来ていないだろう。静かに走って行く車を横目に、公園のベンチに腰を掛けて空を少し見上げてみるも、何も隠す事がないかのように雲1つない青空だけが広がっている。
「お前は誰だ」
顔すらも映らない空に語りかけてみる。だが聞こえてくる音は質問の返信ではなかった。車の音、子供の無邪気な声、鳥のさえずり、風で揺れる草木の音。
地球は何千何億と生きてきて疲れないのだろうか。人生約80年、地球から見れば一瞬の出来事。だが地球にとってその一瞬の出来事が自分にはもの凄く長く永久のように感じる。
架空の物語は突然に始まり、静かに終わる。だが、いつ終わるのだろうか、いつ始まっていたのか、始まりも終わりも分からないただ1つの物語なんて知りたいとも思わない。架空の話しは予想外な出来ごとや、夢のような作り話を広げていく。それに比べて「私の人生はつまらないな」と感想にも残らない言葉だけが残る物語だ。だれがそんな物語、誰が知りたい?
俺はもう忘れた。いつ忘れた?そんな事、もう忘れたよ。
「僕は誰だ」
もう一度、空に向かって質問を投げだす。
「おじいさん、なにしてるの?」
帰ってきた音は質問の返信ではない。が、人の声ではあった。それも若い、幼い、小さい、か細い、か弱い、可愛い声。
視線はゆっくりと下がる。一輪の花を手に掴み僕の方をただジッと見ていた。手に包まれた花は、握られ過ぎて既に萎れている。花が生き生きしておらず、今にも頭が重く茎から落ちそうな程だ。
「何もしてないよ」と間を開けて質問を返した。小さな子は「ふーん」とだけ言って、私の横にちょこんと座った。もう既に何分過ぎたのだろうか。時間を気にし過ぎているのだ。もしかしたら、ほんの2.3分しか経っていないかもしれない。
小さな子は話し出した。
「おじいさん、日向ぼっこだね。でもこれ以上日向ぼっこしてると、枯れちゃうよ。お水、お水」と、少し言葉が纏まっていないのか?いやでも纏まっている。
「おじいさん、だれ?」
「…。」
口を塞いだんじゃない。開かないだけだ。
誰と聞かれてどう答えを返す?僕の名前は?年齢は?何処に住んでる?両親の顔は?今日居たあの部屋は誰のだ?今着てる服はどうしたんだ?あの服は一体誰が買って来たんだ?
――自分の、顔は?
今日の朝、見て来たばっかじゃないか。
何度も何度も「お前は誰だ」と聞きながらずっと自分の顔を見て来たじゃないか。自分は誰だ?誰だ?
――お前は、誰だ?
水呑み場に溜まった水に映る自分の顔を見て言った。映っているあのしわくちゃの顔したおじいさんは誰だ?俺か?
俺?僕?私?自分?
アレ、今までなんて呼んでいた?
アレ、誰なんだよあの爺さん。
慌てて公園を掛け出した。小さい子が持っていた花を踏みつぶし公園を飛び出した。公園までの道のりを振り返りながら帰るも、もう既に道なんて忘れていた。むしろ、覚えていたところであの部屋に行くのだろ追うか?誰か分からないあの部屋に?
「何がしたい?」
分かるわけがないだろうッ!
「何が出来る?」
とりあえず、病院だ…
「何も出来ないの?」
何も分からないんだッ!しょうがないだろうッ!
「今に刺激が足りない?」
足りないも何も、何もないんだよッ……
「生きるのが嫌なの?」
だって、だってよぉ……。
「でも死ぬのも嫌なの?」
……………。
――――
――
―
普通の家庭とは辛いものなんだよ。最近は何処も離婚離婚……。うちにも来ちまったんだよ、離婚が…。ましてやガキまて持って行かれた。
後に残ったのは、……残った物さえ何もないんだ…。
安いアパートに越して、余った金で小さな家具を買って、ただ今は生きていく為だけに、食べていく為だけに仕事に行って家に帰る。冷え切って暗い部屋には以前の用に子供達が駆け寄ってくる事もない。そのまま年をとり退職して老人1人で変わらない日々を過ごしてく。毎日毎日、変わらない日々しか過ぎていかない。
何も出来ない、この年じゃ出来る事が限られている。何がしたいわけでもない、生きていきたいとも思わないし、でも死にたいとも思わない。何も残らず死んでいくのを待つだけの日々が嫌で嫌で仕方なかった。
「つまらない」、そう鏡の中の俺は言っていた。毎日毎日言っていた。今日も言っていたじゃないか。
走ってた、こんな体でもまだ走れたんだ。まだ生きていけるのかな。
新しい世界なんて、あるのだろうか。だなんて考えていても無駄なんだろうな。
あぁ、これが走馬灯なんだな。
気付いたのは、宙を舞っている時。
――――
――
―
ただっじと見てるだけで、同じ言葉を繰り返す。そして、人は狂気に埋まる。だなぁんて、噂だけの話しだ。現実に考えて、鏡に向かって「お前は誰だ」だなんて何回言ったところで自分には変わりない。脳内が「鏡に映っている顔は自分だ」と判断しているのだから何度言っても無断なんだ。
自分が分からない奴なんて居るわけがないだろう。
人生に疲れた人?
それは違うよ、それはただただ現実から逃げたいだけの人だ。
── BAD END ──
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