建物の間取りなどわからないのに、
此処にいたくなくて
ただひたすら外を目指して走った。
何個も扉を乱暴に開けて
部屋の外に飛び出した。
ようやく広いホールに出ると
中央には山吹が咲いていた。
ひらひら舞い散る花弁を見て
この世界に呼ばれた時のことを思い出した。

姉を頼れなくなったあの夜
誰も信じられなくて
泣いて過ごした。
朝、山吹が咲き誇る公園に
行ってみると
突然何かに呼ばれるように
公園の奥にある池に足を踏み入れた。
すんだ鈴の音とともに
この世界に召喚ばれた。
おぼれたと思ったら
人の声が聞こえ、助けられた。
いつも聞いていた優しい声。

「アリスちゃん?」
その声で我に返る。

“此処から逃げ出さなきゃ。
此処の人たちまで不幸にしちゃいけない”

アリスは反射的にユリウスから逃げ出した。
「まっ…まって。…待ってよ、アリスちゃん!」
その声に振り返りそうになるものの
アリスは逃げ続ける。

怖かった。
怖くて、走り出さずにはいられなかった。
この瞳の色が、この景色が。
自分が何か分からないことが怖くて
ただひたすら走ることしかできなかった。

走って出てきた先は山吹で覆われた庭。
周りにあるのは鮮やかな黄色ばかりで道がない。
その風景に不安を覚える。
自分の中にある何かが爆発しそうな時声が聞こえた。
知らない声、でもあったかい声。
「駄目だよ、その力を解放しちゃ!!!」
大きな力が体にかかった。
体から力が抜け倒れそうになる。

「大丈夫かい?間に合ってよかった」
暖かいテノールの声は
アリスに落ち着きを取り戻してくれた。
自分を覗き込む彼は、
月明かりを浴びてとてもきれいだった。
どことなく弥生に似ている彼の瞳に
アリスが映っている。
「……ごめんなさい」
そう呟き、アリスの意識は落ちていった。


ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

Innocent Baby 第玖話

助けてくれた彼は何者なんでしょうか?
まだ弥生君に出会えてませんが、
次こそ弥生君に会えるはず!
気長に待っててください。

閲覧数:109

投稿日:2010/11/29 10:31:25

文字数:770文字

カテゴリ:小説

クリップボードにコピーしました