……何か、聞こえる。
そうか、夢から覚めたのだ。 多分だけど、目の前にはさっちゃんがいて、それから――
『チリン、チリン』
――ハンドベルみたいな音。 さっちゃんはハンドベルで何をしようとしているのか。
それを確かめるためにも、とりあえずは目を開けないと。
「……む……あれ?」
目の前にあったものは、風鈴だった。
そしてそれを持つのは、黒くてスラッとしたスーツを着こなすさっちゃ……
「……」
ちりん、ちりん。
犬。 顔が毛でわさわさしてて、耳も毛でわさわさしてて垂れてる。
目がつぶらで、あと若干ベロ出てる。
その犬が風鈴を持って、二足歩行をしている。
ちりん。
……。
「……」
犬は何も語らない。 あ、鼻のあたまペロってやった。
そしてまたベロが出てる。 かわいい。
「……さわっていい?」
思わず言ってしまった。 夢からは覚めたはずだけど、どうやらここはまだ夢みたいだし、いいよね。
両手をかまえ、ゆっくり歩み寄るわたし。
そのわたしよりも少し背の高い犬は、じりじりと後ずさりを始める。
モフモフくらいさせてくれてもいいのに。 もったいない。
ある程度の距離をゆっくり追いかけっこした後、犬は左腕を見て
ちりんちりん!
と、激しく風鈴を鳴らした。
すると、犬の体が地面に沈み始める。
「え……!」
予想外の出来事に、わたしは犬に向かって走り出す。
だって、ただの土にしか見えない地面に体が沈んでいくのだ。
駆け寄るよりも速く、犬の体が大地に飲み込まれていく。
沈んでいく最中、犬はわたしに向かって小さく手を振った。
右手に持っていた風鈴も、近くの地面に落とした。
……それは、夢ではない夢の始まりだった。
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