運命の時は刻一刻と迫っている。
額から汗が滴り落ちる。いや、額どころではない。
この緊急事態に、全身が汗で濡れ、震えていた。
心臓の鼓動が高鳴り始めてから随分と立つ。
目線の先にある立体投影型ディスプレイには、ストラトスフィア、ゴッドアイ、その他敵味方航空機の機影が映し出されている。
オペレーター達は味方部隊からの無線、レーダーから読み取れる情報を休む暇もなく伝え続ける。ほぼ叫ぶように。
先ほどから視覚と聴覚で得た情報を頭の中で吟味し、冷静に整理する。
基地への攻撃を行ったアンドロイド部隊はほぼ全滅、残存勢力がストラトスフィアの進路変更を行おうとするゴッドアイの攻撃へ向かった。
しかし、量産型ゲノムパイロットの二機が残り、驚くべきことにソード1が独断でGP-1との連携戦闘を開始した。現在も戦闘中だ。
基地防衛を行っていた高射砲部隊、スティンガー部隊は戦闘でほぼ全滅、同じくシック2、シック3は、突然現れたミクオによって破壊される。
そして、ストラトスフィアへ向かうゴッドアイ。
そこには隊長を除いたソード隊、シック4、敵味方の残存勢力が集合し大規模な空中戦を繰り広げている。
間もなく、ストラトスフィアへの着艦が可能になる。
「ゴッドアイがストラトスフィアの管制コントロールのハッキングに成功!着艦を開始します!!!」
オペレーターの一人が振り向き、言った。
「着艦です。博士、準備を。」
誰かが僕の肩をたたいた。
「は、はい・・・・・・。」
ゆっくりと起き上がる。
そのとき、機体の外で爆発が起こり、機内を揺らした。
「うわっとと・・・・・・!」
窓から外を見ると、数十機もの戦闘機が、黒いアンドロイドとの空中戦を繰り広げている。
目の前で何度も爆発が起こり、破片が飛び散るのが見える。
僕は思わず、よくこんな戦火の中を潜り抜けてこれたと感心してしまった。
いや、そんなことに感心している場合ではない。
この中に、ソード隊の人達や、ヤミさんがいるんだろうか・・・・・・。
そういえば、基地防衛に行ったキクとワラさんはどうなったのだろうか。
ミクは今ごろどうしているのだろうか。
今の僕には何も分からない。
そうだ、できるだけ、できるだけ早く終わらせよう。
ミクの事を考えると心配でいてもたっても要られない。
何より、僕がやらなければ、
水面都が何千万人の人が、僕の故郷が危ないのだから・・・・・・!
そのとき、また足元で振動が起こった。
何か大きなものに機体が包み込まれ、窓の外が暗くなった。
「着艦完了した!」
「ぃよし!!博士、行きましょう。管制室まですぐに案内します。」
「はい!」
僕達はハッチに駆け出した。
右・・・・・・上・・・・・・そこだ・・・・・・!
「撃て!!!」
俺とGP-1の発射した弾丸がゲノムパイロットの一機を串刺しにした。
その機体は空中で分解され、巨大な火の玉となった。
「よし、あと一機だ!」
俺が新たな作戦をGP-1の脳へ送る。
するとすぐに彼が反応してくれる。
GP-1との連携は最高だ。
こうも意志の疎通ができるとは思わなかった。
これなら、対等ではない。それ以上だ。
俺達は次の目標を撃破すべく行動を開始した。
俺達はこれでいいとして、ゴッドアイも心配だ。
無事にたどり着けただろうか?
そして、ミク達。
あいつらなら心配無用だと思うが・・・・・・。
「あぶない!」
「くッ!!」
敵の弾丸が、俺の頭上をすり抜けた。
考えるのは後回し。
先ずは目の前の敵を撃破することが先決だ。
雲より高い空で、わたしはミクオと向き合っている。
戦うんじゃない。二人だけで話をするために。
「・・・・・・やあ。雑音さん。」
ミクオは少し笑いながらこっちを見ている。
「どうしたの?はやくかかってこないの?」
できれば、そうしたかった。
ワラとキクを傷つけたミクオが、すごく憎い。
わたしには、ミクオに聞きたいことがあった。
「どうして・・・・・・どうしてなんだミクオ!!!」
それだけ、言いたくて、あとはその答えを聞きたい。
どうしてこんなことをしたのか・・・・・・。
「フッ・・・・・・どうして?キミになぜそれが分からないのかなぁ。」
「・・・・・・?」
「この前にも、言っただろう?僕とキミは似ていると。だから、僕がなぜこんな行動に出たかなんて分かると思ったんだ。」
「分からない・・・・・・!ぜんぜん解らない!!」
ミクオの言っている事が、わたしには分からなかった。
「そうか・・・・・・じゃあ説明してあげるよ。僕は、自由を手に入れたいんだ。」
「自由・・・・・・。」
「そう。自由。今の僕はそれがない。だから手に入れようとしている。クリプトンを潰せば、僕は自由になれる。」
「どうしてそこまでして!それに、君はもう自由じゃないか!」
「いや!自由じゃないね。その理由はまず一つ、キミや僕、キミの仲間のアンドロイド、強化人間、ゲノム人間全ての体内に埋め込まれた、ナノマシンだ!!!」
ナノマシン・・・・・・どこかで聞いたことがあった。
そうだ、クリプトンの・・・・・・。
「これは何のために僕達の中に存在すると思う?それは、意志、行動全てを抑制、制御、管理するためにあるんだよ。そう・・・・・・例えば、自分の考えていない行動を行わせたりね。心当たりがあるだろう?」
「・・・・・・!」
「キミは争いごとが嫌いだったね・・・・・・じゃあなぜキミはここにこうしているのかな?兵器として。」
「それは・・・・・・!」
言葉が出てこない。
自分でもよく分からない。
「キミは今まで何人、人を殺した・・・・・・?そして、それはキミの意志か・・・・・・?」
「それは・・・・・・!」
「それがナノマシンだ!ナノマシンという名の呪縛なんだ!!キミや、キミのお友達は自ら殺戮マシーンになりたくてなったんじゃない。人の命を奪ったあとの気持ちは、辛いだろう?」
確かに・・・・・・。
わたしは人殺しなんて大嫌いだ。
それなのに戦闘となるといつもそれが好きになってしまう。
そんなわたしが大嫌いだった。
それは、すべてナノマシンというものが起こしたというのだろうか。
「雑音さん・・・・・・僕も人殺しや戦争は嫌いだったんだよ。」
「なに・・・・・・!」
ミクオがそんなことを言うなんて、思ってもいなかった。
「生まれてすぐに実験、試験と称して世界の紛争地帯に送り込まれてんだよ。そこでいっぱい人を殺した・・・・・・その時は吐き気がするほどだったんだ。それでもナノマシンや戦闘プログラムを導入されてからはむしろ楽しくなったんだ。戦闘のときだけね。それでも戦意が失せた後に、自分の抑えられていた感情が吹き出したんだよ。辛かったなぁ・・・・・・キミもこの辛さは知っているだろう?あのGP-1も、同じだったはずだ。しかしそれだけはどうすることもできないらしかった。だから僕は、殺人を好むしかこの苦痛から逃れる術はないと思ったんだ。その矢先、僕にストラトスフィアや量産型アンドロイドという、強大な戦力が与えられた。そして、何億人もの、殺していい人間・・・・・・殺人を好きになる絶好のチャンスだったんだ。そして僕は殺戮をした。GP-1もね。ありったけの弾薬、ありったけのエネルギー、ありったけの殺意で!ナノマシンの感情抑制ではないと信じて!でもどんなに人を殺しても気が晴れることなんてなかったよ。残ったのは虚しさだけ。そして気付いたんだ。僕はクリプトンに従っていても、永遠に苦痛から逃れられないと。しかも、クリプトンの内部にハッキングしたら、僕はもうすぐ解体されるところだったんだ。だからもうあの企業に愛想が尽きたんだよ・・・・・・クリプトンを潰せば、恐らくナノマシンの制御管理システムが破壊され、僕の感情の制御、行動の制御がなくなり、自由になるだろう。何より、あの恨めしいクリプトンタワーが吹き飛ぶのを観れば気分が晴れる。誰がどうなってもいい。今まで僕はひたすら我慢してきた。だから最後に我がままの一つくらいかなえさせてくれてもいいんじゃないかなぁ・・・・・・。」
「そんなことをしてどうする!君はどうなると思ってるんだ!!」
「僕のバッテリーはあと三時間と持たない・・・・・・。」
「え・・・・・・!」
「僕は、全ての呪縛から解き放たれ、自由になったことを確認したあと、自決するよ。」
「そんな・・・・・・!」
「僕はもう正直疲れてしまった。勝手に感情を突き動かされることに。そして、殺人マシーンとして使役されることも。だから、最後は気持ちいい気分で
終わりたい。頭を完全に打ち抜けば、完全に死ねる。」
なんて言ってやればいいか、言葉が出なかった。
ミクオの苦しみは、わたしでも分かる。
しかも、ミクオはわたしよりも、傷ついているんだ。
でも・・・・・・。
「それでも・・・・・・わたしは君を止める。護らなければならないものがあるから。この気持ちはナノマシンのせいじゃない。わたしの気持ちだ!」
「そうか・・・・・・じゃあ仕方がない。」
ミクオは、背中からゆっくり武器を抜いた。
わたしも腰から刀を抜いた。
「この壮大な夕暮れの空で、キミと翼を交える・・・・・・。これなら、キミに殺されても気持ちよく死ねるかも知れない。」
「ミクオ・・・・・・本当にいいのか・・・・・・?」
「当たり前じゃないか。もう覚悟は決まってる。キミが僕を殺せば、首都は護られる。僕がキミを殺せば首都は吹き飛ぶ・・・・・・どちらにしろ、僕は気持ちよく死ねるだろう。」
「わかった・・・・・・。」
私とミクオはお互いに武器を構えた。
「せめて・・・・・・・・・・・・・・・最高のひと時にしよう!!!!!!」
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