世界など、壊れてしまえばいいと、思った。
こんな世界――壊れて、消えてしまえばいい。
あの人の傍には、居られない。
あの人を、愛している。だからこそ、傍には居られないのだ。
女の――ましてや身篭ったこの身体では。
修羅の道を歩むあの人の隣には、居られない。
だから、別れた。あの人を愛していたから。
愛されている事を、知っていたから。
遠く遠く、何処か平和な場所で。
あの子とふたりで、静かに生きていく。
そう誓って、あの人と別れた。
――そう、誓ったのに。
あの日、全てを無くした。
強奪され、凌辱され、何もかも失くした。
お腹の子も――流れた。
静かに、そっと生きていく。
それだけで、良かったのに。
充分だったのに。
願っていたのは、それだけだったのに。
あの子が居ない。
抱くことすら出来なかった。
争いは消えて、やっと笑って暮らせる世界になったのに――あの子が、居ない。
どうして?
ねぇ、どうしてなの?
私は笑えない。だってあの子が――。
だから。
こんな世界、壊れてしまえばいい。
消えてしまえば、いい。
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