晴天とも呼べる青空の下、駅前では人々がそれぞれの目的地へと急いでいる。鳩が歩いたり飛んだり電車が規則正しく動く中、夏に近い温度なのに白いコートに青いマフラーを巻くアンドロイドが歌を歌っていた。彼は少しでも人々にその歌を聴いて欲しいのだ。
 何故かは誰も知らない。いつの間にか彼はいたのだから。もしかしたら彼を作った科学者がそうするように頼んだのか、或いはロボット(特にアンドロイド)が意志を持つようになったので彼自身ここにいたいのかもしれない。とにかく理由は分からないのだ。だが彼は其処にいる。歌を歌うために。
 駅前の小さくも大きな広場。彼が四六時中居るこの場所にこの日は白いワゴン車が駐まっていた。選挙が近いのだろうか、ワゴン車に書かれている名前の人―だろうか。その人が演説をしている。そしてそのワゴン車の周りにはその人を応援する人が何かチラシのような物を配っている。しかし、彼はそんなことを気にせずに歌う。だが相手は演説のマイク。大音量のそれに彼は太刀打ちできない。それでも道行く人々は素通りする。そんな中、朝なのにもかかわらず彼の目の前に佇む女性がいた。赤が似合う、質素な服を着ている。彼女もまたガイノイドなのだ。よほど年季が入っているのか、人でいう肌の部分から何かのコードがいくつも見える。
「頑張っているのね。」
 彼に聞こえるように言った。彼は歌を一端止める。
「まぁね。」
 その一言が終わるとまた彼は歌い出す。赤いガイノイドはその場から別の場所へ歩き出す。彼女はいつもそうなのだ。朝早く来て彼の歌う歌をぴったり五曲分聞くとこうやってどこかへと歩いて行ってしまうのだ。それだけのことでも彼は嬉しかった。“必ず歌を聴いてくれるお客さん”だったから。

 そんな平和な日でも必ず非日常は訪れるもの。先程の日から二ヶ月経ったある日、いつも来る彼女が来なかったのだ。彼は不思議に思いつつも使命に似た“歌うこと”を続ける。彼女は“壊れてしまった”のだ。人に必ず死が来るように、彼らにも“死”は訪れる。作られた物は壊れる定めなのだ。彼女は“作り物”としての生を終えたのだ。
 彼が“知らない”事実。もう彼女に会えることのないまま強い酸性雨が涙するこの駅前広場で彼は―――。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

未来都市に住むアンドロイド

すごく短いですがこれでおしまいです

“彼”がどうなったのか、なぜ“彼女”が“彼”に会うのか
それはそれぞれの妄想力でカバーして下さい(笑)


ガイノイドってなんぞよ?って思った人いるかも知れないので
女性のアンドロイドのことです
(ここだけの話、wiki先生の所に行ってきたりする)

閲覧数:92

投稿日:2010/06/08 00:06:46

文字数:940文字

カテゴリ:小説

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