「私もいやです。でも、ご主人様がそうおっしゃるのでしたら、私達はこの幸せだった時のことをこの世界の墓標にして、この世界と共に眠りましょう。」

あぁ、本当に嫌になる。こんな僕をこんなに慕ってくれた君達のことが、大事なのに。大事なのに、殺そうとしている。なんて、最悪。

「さて。もういいかな?」

紳士はこちらを窺い、言った。覚悟は、決まった。

「はい。」

「じゃ、そこで、『世界を消す』、って念じて。」

「はい。」

僕は、念じる。唯ひたすらに、ひたむきに。世界を消す、世界を消す、世界を消す、世界を消す、せかいをけす、セカイヲケス…。
どれだけ時間が経っただろう。ふと、足下に地面がないことに気がついた。

「うわぁっ!」

「念じて!そうすれば、地面がある様になるから。」

そうだ、念じるんだ。そうしないと…、そうしないと、どうなるんだ?…嫌なことに気がついてしまった。取りあえず、念じとこう。そうすれば、どうなってもあの紳士のせいにできる。
あ、足下に地面がある。ってことは、着いたのかな、何処かに。恐る恐る目を開ける。
ここは…、ボイラー室だ。なんだ、帰って来たんだ。扉を開ける。いつもの昼休みの喧騒が、僕を包んだ。
あぁ、なんて、なんて変わらないのだろう。僕が世界を一つ潰しても、何もなかったかの様に変わらないこの世界。その世界が決して良いとは僕には感じられないけれど、だからと言って他の者達と差別する訳でもないこの世界。僕の造った世界なんか、まるで玩具みたいに思えてくる。いや、まるでも何もなく、唯の玩具だったのか、と思い至る。さっきまで、あそこ程の理想郷は無いと思っていたのに。

「あ、澄川、一緒にサッカーしよーぜ。人数足りなかったんだ。」

ぼけ―、と突っ立って居た僕を、雪屋がよぶ。

「いいけど、人数足りないとか、言うか、フツ―。」

ほら、いつもどおり。何の変哲もない、昼休み。でも、いくら中味のない世界でも、夢の中に沈んで居たかった。夢は甘く、現実は味気無い。

―――キーンコーンカーンコーン

「あっ、予鈴鳴っちゃった。お前が早くこないから~。」
悪い悪い、と肩を竦める。本当は、サッカーなんてしたくなかった癖に。なんて空虚なんだろう。会話はルールに縛られ、行動は常識という檻で囲われてる。その中で生き残る事は、なんて難しいのだろうか。
数学の時間
授業中でも思考することは出来る。さて、これからどうしようか。夢は、もう見られないのだろう。あの世界には、戻れない。そんな事は、許されない。世界を壊しておいて、都合よく、また世界を造って利用するなんて。でも、戻りたい。
あぁ、だめだ。思考が進まない。こんな時は、不本意だがアイツに頼ろう。アイツは放課後の教室に現れる。何処からか、何処でもない処からか、現れるんだ。そうと決まれば、早く放課後にならないかな、とか考えている現金な僕。

本当に、嫌になる。

放課後。
誰も居なくなった教室は、いつもより広く感じる。此処でアイツを待つ。
―――ガラガラ、ガシャ。
来た。

「久しぶりだね。どうしたの。」

挨拶もなしに、いきなり聞いて来た。こいつは、星納(セイナ)。いわゆる、保健室登校生だ。コイツが此処に居る理由は知らないが、月が出る頃迄教室にいたら逢える。なぜ僕がこんな正体不明なヤツというと、それが約束だからだ。約束なんて、すぐに破れる。破っても誰も怒れない。そのくらいの距離が僕らにはちょうど良い。
さて、何処から話したものか。取りあえず、僕が世界を造り、壊した話から。

「僕には、世界が在ったんだ。これは、比喩でも何でもなく、世界を持っていたんだ―。」

僕は、全てを話した。コイツは信用には足らないが、のべつまもなく話す様なヤツではない。それに、コイツに話した処で、誰かに話が漏れる心配もない。

「―と言う事で、僕は全てがある処から何でもあるけど何にも無いここに帰って来たんだ。」

「ふぅん。貴重な体験談、ありがとう。で、僕に聞きたかったのは、何の事?」

「それは…どうやって生きるのか、って事さ。僕は今、此の世界で生きていたくなった。だから、その為の方策を。」

「僕が言うまでも無い。生きようとした時点で君は生きてる。だから、そのままでいたら、死なないよ。だけど、生きるのは難しい。前を見て、後ろも振り返りつつ、左右にも気を遣わないといけないからね。」

「じゃ、僕は死ななかったらいいや。」

「そんな事言うな。生きる方法を忘れたら、また生きることが出来なくなるから。」

「生きないといけないのは、何でなんだ。」

「生きたくても生き方を忘れた僕が、此処にとどまる為。君や他の人達が生きているのを観察するのが、僕が生きている目的だから。」

あぁ、わかった。コイツは自分の為では無く、人の為でも無く、生きる為に生きている。そう思ったとき、僕は、正解では無いかもしれないけれど、生きる意味を見つけた。

「わかったよ、僕が迷っていた理由。僕はきっと、此処に居たかったんだ。他のモノ全部を見つめる、観察者になりたかった。他を見るのが好きで、自分が嫌いな僕にはお似合いだ。だけど、それにも飽きた。だから、僕は新たな世界を造り、新たな人達と関係を持とうとした。だけど、僕はそれすらも失敗した。だから、僕は、世界の観察者になりたい。」

「なぜ。」

「人なんかより此の世界の方が面白そうだから。」

そう。これが僕の、此処で生きる理由。造り物より天然の世界の方が、やっぱり面白そうだ。

「そうか。じゃ、僕に話したいことがそれだけなら、僕はもう帰るけどいいよな。」

「あぁ。話し相手になってくれて、ありがとな。また何かあれば、此処で会おう。」

「そうだね。じゃ、僕はその“いつか”を待つ事としようか。」

そういうと、手を軽く振って教室から出て行った。

「はぁ…。」

溜め息が零れる。やっと独りだ。独りで居るのが、一番落ち着く。人に言うと寂しくないのかと訊かれるけど、僕は寂しくなんか無い。だって、此の世界には孤独が入り込む隙間なんか無いから。いつも何かに囚われて居る。僕はそれが嫌いだった。だけど、僕は此処で生きる方法を見つけた。だから、嫌いでも、以前の様な息苦しさはない。
明日の事を考えた。今日より、楽しい気がした。今日と明日は違うから、楽しいことも多いはずだと思った。
僕は長い長い夢から醒めて、生きることを始める事にした。

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夢から目覚める物語。(4)

お待たせいたしました。4でございます。これで一応、終わりかなーと思ってます。

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投稿日:2010/02/03 21:44:21

文字数:2,674文字

カテゴリ:小説

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