皆さん、サンタ・クロースなる人物をご存知だろうか?
 クリスマスの夜、子供たちの願う物を気前良く無料で贈呈する太っ腹のお金持ちじいさんである。しかも空飛ぶトナカイなる奇怪な生き物も所有している。だがそれは架空の人物。実際はある殺人鬼をモデルにしている。


真偽は人間が決めるものではない。既に決まっているのだ。


 ある雪国のとある街。そこでは一人の男が有名だった。名はセント・ニコラウス。協会の神父をしている男だ。彼は誰に対しても優しく、彼を好むものはとても多かった。彼は街の美化や秩序を正す活動に励んでいた。そのおかげで街は平和そのものだった。だがそんな平和な街に、事件が起こった。無差別殺人、というやつだ。或(あ)る者は生きたまま皮膚を剥がされ激痛に満たされて死んだり、又(また)或(あ)る者は自分の腕や足を切断されそれを食べさせられて自分を味わいながらショック死した。しかし、今まで平和に暮らしてきた人々にはそんな異常に対する抵抗も知識も無く、犠牲者は増えていく一方だった。平和故に、平和ボケしてしまったのだ。犯人はそれをいい事に人々を殺め、快感を得て、それに慄(おのの)き戦慄(わなな)く住民達を見て、住人達を見て、快感を得た。そんな恐怖の中、訪れたクリスマス・イヴ。犯人は周到に計画を練っていた。クリスマスと言う記念日に殺人を犯すと言う背徳感に快楽を覚えながら着々と計画を練った。
 クリスマス・イヴも残すことあと数分と言う真夜中。犯人は計画を実行に移した。犯行に使う道具を入れた大きい袋を担ぎ、何時(いつ)もの様に体格が分からない様なダボダボの大き目の服と顔を隠す為に羊の毛で髭を作り、念の為髪型でバレない様に帽子を被った。その格好で標的の家へ行く。キッチリ戸締りされている。まあ、当たり前か、と思いつつ家への侵入を試みる。だが、普通に這入(はい)ろうとすれば扉を壊すか窓ガラスを割る必要があり、もちろんそれによって生じた音でバレてしまう。だが、いくら戸締りされているとはいえセキュリティに穴(まさしく穴だ)があった。それは雪国故に生じてしまった穴だった。
煙突だ。犯人は煙突から家に侵入していたのだ。そして、煙突を伝い見事侵入を果たした犯人は早速犯行に取り掛かる。今日の殺害方法は、夫婦関係を利用したものだ。まず、夫と妻を縛り、二人とも起こす。そして、夫の目の前で妻をゆっくり殺すのだ。まず目に針を刺し、視覚を奪う。次に絶妙にブレンドされた毒物を飲ませて体内に死なない程度の激痛を与える。そして体外にもきちんと激痛を与える為に、切れ味の悪いナイフでちょっとずつ肉を削いでいく。さらにそして、仕上げに首を斧で一思いにパッツリと切断する。その姿を夫に見せる事で精神的にダメージを与えていくのだ。本当は妻にこれをやりたかったのだが、こういう精神的な抵抗は女性よりも男性の方が脆く弱く、圧倒的に効果抜群、効果覿面(てきめん)なのだ。そして、夫にもちゃんと別の殺害方法を用意してある。ちゃんと妻の姿を見せる為顔は傷付けない。まず鉄の手袋(というよりは手甲冑や手鎧のほうが正しいか)を嵌(は)めて、その上に強力な酸を染み込ませた手袋を嵌める。それで体を殴っていくのだ。鉄に拠(よ)り強固となった拳で体内外を破損、破壊し、酸でさらに傷口を溶かしてさらなる激痛を与える。これが意外と一気には死なないのでかなり楽しめる。そして二人が亡き者になった今は帰る為に煙突に向かっている。証拠隠滅はしなかった。この時代では何の意味も持たない証拠だったし、現場を見せ付けることによって街の人々の恐怖を増幅させる為でもあった。だが、ここで想定外、想定範囲外のことが起こった。殺した夫婦の子供が起きてきたのだ。口は塞いであったから声は出てなかった筈(はず)。だが、子供にはそんなこと関係無かった。単純に純粋に起きただけであった。犯人は焦った。どうしよう。このままじゃ、やばい。一方子供はこの男は誰だろうと男を観察していた。だが、犯人はそんなことには一切注意を払わなかった。変装をしていることもそうだが、動転してそれどころでは無いのだ。子供は疑問に思った。この人の服なんでこんなに赤いのかな?疑問に思うのも当たり前だろう。この時代の服と言えば多少茶色っぽい色の付いたものしか無かった。こんな色鮮やかな真紅、色艶やかな深紅の服など上流階級の人しか着れず、故に小さな子供が目にすることは無く、さらに故に、目に付いたのだ。だがそこは子供。返り血などとは枝毛程も思わず(と言うよりは思うほどの知識が無かっただけだが)、単なる豪華な衣装としか思わなかった。そして男を見ている内に子供は気付いていた。あ、この人確か教会の優しい神父さんだ。十字架のネックレスしてるもんな。名前は・・・、そうだ。セント・ニコラウスのおじさんだ。子供には変装は然程(さほど)効かない、意味無いのだ。子供は知識が無い。無い故に無駄な情報が無く、人の顔を部分的に見れば大体の見当ぐらいはつく。そして十字架のネックレスが決定打、確信、確証となった。犯人はその教会のシンボルであるネックレスをしたまま犯行することによって強烈な背徳感を得ていたのだ。そして子供は犯人が誰だか知った。だが子供にはそこまでしか思考が回らなかった、そこまでしか思考が廻らなかった。何故ここに、この時間帯にいるのかなど睡魔の甘い囁きに掻き消されて仕舞っていた。だが、そんなのニコラウスが知る由も無く、知る術も無くとにかくこの子供の気を逸らすことだけ考えていた。それこそ、殺人気っぽく殺害すればいいものを、心内動転境地のニコラウスには露とも、遂には思い浮かばなかった。ニコラウスは子供に優しく微笑みながら声を掛けた。
「今晩は。どうしたの?」
「おじさんこそ、どうしたの?」
「私かい?私はいつもいい子にしている子供にプレゼントを配っている所だよ。」
「どうやって家に入ったの?」
「煙突を使ったんだ。」
「どうやって屋根に登ったの?」
 ニコラウスは考えた。普通に答えては変な疑いを抱くかもしれない。そこで子供が喜びそうな嘘を吐く事にした。
「空飛ぶトナカイにソリを引っ張ってもらったのさ。」
「へぇ~、すごいね!その袋は何?」
「子供達に配るプレゼントが入っているんだよ。」
「いい子にあげるんだよね。」
「君はいい子かい?」
「うん!」
「そうか。じゃあ後でプレゼントを君の寝室に置いておこう。何が欲しい?」
「教会のおじさんがしているネックレス!」
「・・・どうしておじさんが教会のおじさんだって分かったの?」
「だってそのネックレス、教会の人だけがもらえるものでしょ?実は僕欲しいから毎日見てたんだ。だからおじさんが教会のおじさんだって分かったんだ。」
「そうか。じゃあ、これは君にあげよう。」
「ほんとうっ!?」
「だけど、その代わりおじさんのことは秘密だよ?誰にも喋ってはいけないからね?」
「分かった!僕誰にも喋らない!」
「よし、いい子だ。でもすぐにはあげられないな。」
「えぇ~。何で?」
「今ちょっと汚れててね。後で拭いてキレイにしてから渡すよ。」
 確かに汚れているのは事実だった。返り血によって。
「分かった。何処に置いておくの?」
「そうだな。なるべく人が見ないような所がいいな。誰かがネックレスを見たら秘密じゃ無くなるからね。」
「じゃあ僕の靴下の中に入れて置いてよ。それなら外からじゃ見えないし、朝すぐに僕が履くから誰にも取られないよ。」
「分かった。じゃあいい子だから眠って来なさい。」
「は~いっ!」
 そして子供は寝室に戻って行った。ニコラウスは急いで台所に向かった。血が乾かない内に洗わなければ。もしここでネックレスをあげないで後日、「どうしてネックレスくれなかったの?」とか言われてはお終いだ。ニコラウスは時間を掛けて血を洗い流し、子供の寝室に向かった。そっとドアを開け子供が寝ているのを確認してから、ベッドの近くに用意してある靴下にネックレスを入れる。そして急いで煙突から家を出る。こうしてニコラウスの危機は去った。危機は・・・。
結果はちゃんと付いてきた。危機は本人が感じている時のみに危機足りえるので本人が気付かなければ危機は無いに等しい。何が言いたいかと言うと、子供を説得している現場をみられていたのだ。その現場を発見したのは一人の青年だった。その青年はニコラウスを尊敬して自分もああなりたいと思い、毎晩街の見回りをしていたのだ。青年は思った。尊敬するニコラウスを守りたい。ここは黙っておこう。だが、ニコラウスを尊敬して、それを行動に移す程の純粋な青年だ。純粋な心はこう考えた。いや、それじゃ駄目だ。ちゃんとニコラウスの為にも罪を償わせるべきだ。そして、ニコラウスは捕まった。彼が犯人と知り、街の人達はかなり驚いた。あのニコラウスが、と。そのおかげで彼が隣町の死刑執行場に連れて行かれる時にはかなりの人が集まった。あの子供も。だが、親が死んだと言う事実を受け止められる程成長していない子供は、親は遠くに出かけていると思い、今からニコラウスが迎えに行ってくれるのだと思った。トナカイが引くソリを見て子供はあれは本当なんだと思った。空を飛ばないのは秘密だからだと思った。無邪気な子供は邪気の塊であるニコラウスの名を呼んだ。プレゼントありがとうという思いを込めて、お父さんとお母さんを早く連れて帰って来てねと言う願いを込めて。だが、子供はまだ舌足らずで、自分ではちゃんと言っているつもりでも周りの人達にはこう聞こえた。
「またね。サンタ・クロースのおじさん。」と。

 そしてこの事件は幕を閉じる。大人達はこの事件を忘れない為に子供に語り継いだ。ただ、子供を恐がらせない様に、ちょっとだけ脚色して・・・。


今日まで語り継がれている物語。その物語には、貴方が知らない裏の真実が隠されているのかもしれない。

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夢を叶える男※少々グロあり

サンタクロースの裏の話

閲覧数:72

投稿日:2012/01/01 02:05:40

文字数:4,083文字

カテゴリ:小説

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