雨が降る日のこと、僕は帰り道、
近所のコインランドリーの前を通りすがると、雨宿りしている1人の女性に目が止まった。
その女性は髪が長く、貧しそうな格好をしており手には何も持っていなかった。

なぜだろうか、僕はその女性を前にどうにも知らんぷりをして帰ることができなかった。あれこれ考えているうちに、僕は思わず声をかけた。

「傘、持っていないのですか」

すると女性は何も言わず恥ずかしそうな顔でこちらを見てきた。長い髪の間から、宝石のように美しい瞳が覗き込むように僕を見ていた。
すると女性は
こくっ、と頷き、透き通るように綺麗な声で

「連れてって」

と、そっと呟いた。
その頃には雨はやむことを知らず
土砂降りで、僕はどうすればよいかわからないまま女性を傘に入れ、家まで送る。

長いこと歩き、日はとっくに暮れていた
僕は山道に入った。
辺りは林に囲まれており、道には時折
歪な顔をした地蔵が置かれていた。

見えてきたのはどこか見覚えのある神社だった。
こんな場所、来たはずもないのに
どこか懐かしい。

すると突然女性は立ち止まり

「私のこと、覚えてる?」

と言った。
その瞬間、降りしきる豪雨が突如晴れ、気がつくと目の前には狸がいた。
それは僕がずっと小さい頃、川で溺れそうになっていた僕を助けだした狸だった。

「ああ、覚えているよ。いつも見守ってくれてありがとう。」

と僕は言った。

狸は嬉しそうに、どこか寂しそうに姿を消した。

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妖狸

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投稿日:2023/09/18 14:41:14

文字数:627文字

カテゴリ:小説

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