紫の着信ランプがひかる携帯電話
ただ、薄くて軽い。
それから赤と黒という類似した色に惹かれて買ったモノ。
滅多に変えない携帯電話にバイト先の人たちは興味をしめしてたけど、
だって、あたしの携帯には30人ほども登録されていない。
友達以外で入っているのなんてバイト先や病院の番号
申し訳程度に入っている、連絡先くらいだ。
この連絡先だって、きっとあたしが死んだりしたら連絡されるくらいだ。
このよのなかにはなんにもない。
あたしはそんざいしない。
見えるのは退廃的な希望と絶対的な絶望
絶対だなんて、誰が言った?
対が絶える
どんな気持ちでこの言葉を作ったのだろう。
重たい瞼を無理やり片目だけこじ開けて、紫に手を伸ばす。今はもう紫しか見えない。一番大事な人にだけ使う紫という色。携帯を初めて持った日から紫の着信ランプはあの子だけのもの。あたしの一方的な片想いだけれど……。最近は、あの子の笑顔を見なくなってしまった気がする…何がそうさせたんだろう……
あたしはもう君の中には存在出来ないの?と悲嘆にくれて目の前で泣き叫ぶほど子供ではないし、純粋に好きだという気持ちで君の幸せを願えるほど大人ではない。
『好き』って言葉以上の絶望はない。ねぇ、あたしは君を抱きたいんだよ、キスして愛を囁いて同じ空間で眠りに落ちたい。
隙間無く君に愛を囁いていたい。
片目から広がる視界に君からの文字が並ぶ。
『今度あそぼ』
文字にふっと笑って、眠っていた右腕を布団から起こし痺れてうまく動かない手のひらを見つめて空気を掴んで握ったり放したりを繰り返す。
やっと感覚がもどったそれで『珍しい。いつ?』と一言送信する。
この小さな画面に君への愛を納めるならば、きっとたった二文字。「好き」 って言葉。
愛してる、好き、大好き
紫に愛を込めて。
例え話をするならば
あたしが男で君と出逢ったなら、必ず恋に落ちるだろう。
君に愛を囁いて、抱きしめて二度と放さない。
お風呂に入ったら、髪から洗うこととか
つまんないと毛先を指に絡めて遊ぶこととか
イライラすると爪を噛むこととか
寂しい時はさりげなく服の裾を握ってくることとか
抱きしめて欲しい時は無口になることとか
全部知ってるから
だから、この気持ちだけはあたしん中で息をすることを許してほしい。
伝えても成就されない気持ちだから。
何度も溢れ出して、好きだと伝えたけれど君は冗談だとか、そんな風に思って『ありがとう』って笑うんだ。
こんなに愛しくて、胸が痛くなるのに、君には届かない。
伝わらない。
冗談めかすあたしが悪いんだけどね。
ないはずの存在理由を君に求めてしまうあたしを許してほしい。
そして、君の幸せにおめでとうを言えないあたしを許してほしい。
涙ばっかり流れて、携帯を閉じる。
紫の光が、切ないメロディーに合わせて謡う。
どれだけの夜景の中でも、あたしはきっとこの紫を見つけられる。
愛してるから
こぼれた滴を拭ったティッシュを丸めて、放った。
ぐちゃぐちゃなティッシュは、放物線を描いてピンポイントであたしの心を射抜いた。
切ない声で歌い上げた携帯は、ピーっと軽快な音をたててことりとストラップが崩れ、事切れた。
何色にも染まらない君が好き。
こんなに好きだなんて、気付きたくなんかなかった。
素直に好きだなんて言えないほど、好き。
春先のあわい黄色の花を咲かせた雑草があたしの心で蔓延る。
抜いても抜いても、また生えてくる。
カチリと
小さな音で紫煙をくゆらせて高い高い空を恨んだ。
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