シンデレラ城は、西のバルコニーからは海が、北のバルコニーからは森が、東からは雄大な草原が、南の城門からは下町に続いてゆく大通りが見渡すことができる巨大なお城だ。
継母様と二人の姉が、流行りの疫病で息を引き取ってからというもの、たとえ住み慣れているとはいえ、だだっ広いお城に独り残され寂しくなるばかりだったシンデレラは、朝は海辺で歌を歌いながら朝日を眺め歩き、昼は森で動物と戯れ果実をもぎ、日暮れになれば草原で花に囲まれ大きな夕日の前で踊り、幻想的な街の明かりに思いを馳せながら城のベッドに沈んで眠りにつく毎日を過ごしていた。
エドワードを騎士として迎えてからも、そこにエドワードの姿が加えられただけで大して変化もなく平和に過ごしていた。
ある日の昼下がり、森のウサギと追いかけっこをしていたところに、腕から血を流しながら木にもたれかかっている男に出くわした。
至る所にずんだれた包帯を巻き付けた、目にかかる黒髪の細身の男は手に金に輝く矢を力いっぱい握りしめて腕から引き抜くと、荒い息で「くそ…っ」と呟いた。
「まあ、すみませんそこの貴方、どうされたの?酷い怪我!手当てしなくっちゃ!」
男は薄目を開けて、吐息交じりの掠れ声で「すまんが…うっ……頼む…」と言ったきりぐったりとしてしまった。
「エド!エドワード!こちらに来て!大変、手を貸して!」
透き通った声でシンデレラはそう叫ぶと、金に輝く矢をドレスのリボンに括りつけて包帯の男の頭を自分の膝に乗せ、駆けつけるエドワードに腕を伸ばした。
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その頃、青い髪をサラサラと靡かせて隣国の王子フィリップが船上でパーティを開いていた。
檻の中で真っ赤な髪にルビーのような赤い目を光らせて座り込んでいる男がずっとフィリップを睨みつけている。
「いやぁっ!気分がいい!お前が噂の狼人間か!」
「うっせえ、黙らんかい。ヒトのこと人狼呼ばわりするんはジンケンシンガイ、名誉棄損とちゃうんか?」
酔った乗組員に噛み付かんばかりに吠える赤髪の男は、その怒りの標的をフィリップに向けた。
「てっめえ……お前覚えとれや!俺の魔法が解けたあかつきには首とったるからな!!」
フィリップはその間、いや、男を捕えた時から絶えず顔に優しげな頬笑みをたたえていて、男の啖呵を聞いて更に大きく笑みを浮かべると、初めて口を開いた。
「僕はフィリップ、先程から君の飼い主です。君の名前は、んー…そうですね、ポチ。
後、そう言うのなんて言うか知ってますか?負け犬の遠吠え、って言うんですよ?」
僕、初めて見ました!
最後にそう付け加えると唖然とした男、基ポチに背を向けて歩き出し、丁度ポチの死角に入る角で一度ポチを馬鹿にしたような冷たい目で一瞥し、片側の口角をあげ鼻で笑った後人ゴミと喧騒に紛れていった。
「アイツ…むっかつくわぁ……っ!俺はエンブリーっつうかっちょいい名前があるんや!」
ポチがまた吠えてますね、彼方此方で笑い声が聞こえて更に怒りを募らせるポチことエンブリーであった。
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