「サンタクロース」

クリスマスの前夜、子供たちに贈り物を届けるという白ひげの伝説上の老人。
4世紀小アジアのミラの司教セント‐ニコラウスに由来し、
その祝日12月6日の前夜に贈り物を交換する習慣がさまざまに転化し、
さらにオランダ系ピューリタンによって米国に伝えられ、クリスマスに贈り物をする習慣と結合した。

引用:国語辞典



そう、そうなのだ。

クリスマスとは子供がプレゼントをもらう日。

家族で仲睦まじく団を囲んでホカホカしていればいいのだ。


それを、現代の日本はどう勘違いしたのだろうか。


男女交際中の2人が一緒に過ごすのが当たり前

そんな日ではない。

子供の夢と希望に満ちたこの聖なる日を

男女の愛と現実に満ちた性なる日になどしていいのであろうか。




「と、私は思うわけなんですよ!」


そういうと、彼女は机を掌でバンと叩く。

いつも彼女が熱弁した後に行う癖だ。


「で、何が言いたいの?」

「だから、今年は茜ちゃん、一緒にクリスマスを過ごそう!!」

「却下。」


ばっさりと吐き捨てた「茜ちゃん」と呼ばれた人物は

彼女の友人。

サバサバとした性格で姉御肌で、男子から敬遠されがち。

なのだが…


「毎年しつこいんだって、私は彼氏いるんだからさ。」


彼氏持ち、しかももう5年も付き合っているらしい。

「もう」というのは、少し違和感を感じるが

付き合っては別れを繰り返す現代の学生のアホさゆえの表現だ。



「今年も…私に一人ぼっちの聖夜を過ごせというのね…!」


芝居交じりに彼女がそう告げると、

うっとおしそうな表情で


「過ごせ、非リア。」


と吐き捨てた。



「もういい、今年はサンタさんと2人で過ごす!!!」

「は…まだサンタ信じてるの?」

「いるもん!!クリスマスの意味をはき違える彼氏持ちにはわからないでしょうね!!」


そういうと彼女は頬を膨らませてフンとすねた表情をする。


「はいはい、そうですね、非リアにしかわかりませんねー。」

「非リアって言うな!!」


どうやら、彼女は一人ぼっちみたいだね。

いろんな意味で不憫な子だね。



「でも、僕のクリスマスの過ごし方も、おかげで決まったよ。」




どうも、全国リア充撲滅委員会会長、佐々木広菜です。

12月25日、街も人もクリスマス一色な今日この頃です。


おととい親友の茜ちゃんに「彼氏がいるから」という
この世で最もくだらない理由でクリスマスのお誘いを
ばっさりと断られた挙句、「非リア」と罵られました。


「だから、クリスマスは嫌なんだ!」


もともと恋人と過ごす風習なんてあったんだろうか…。

それじゃあ、わたしはどうすればいいんだよ。



「ただいまー。」

誰もいない家に私の声だけが響く。

バイト終わりで疲れた体をソファに投げ出す。

時計の針はもう10時を過ぎていた。


シンとした家は、誰もいないのでもちろん朝のまま。

干してある洗濯物を取り込み、湯船にお湯をはる。

いつの間にか慣れてしまった一連の動作。


そしてその一連の動作を終えた後、仏壇のある部屋へと向かう。


「おじいちゃん、今年も茜ちゃんにフラれたよー。」


おじいちゃんは、3年前に死んだ。

血縁関係はない。


10年前の12月25日、クリスマスの日。

一人ぼっちの私を見つけて育ててくれた人だった。

「おばあちゃんがいなくなって、寂しいところに現れた広菜は天使のようだよ。」

と、いつも嬉しそうにしわを寄せて笑う人だった。


おばあちゃんは私を見つける少し前に亡くなったらしく、

ひどく広いこの家は、一人でいると孤独で仕方がなかった

きっとそう思っていたのだろう。


今ならわかる。

おじいちゃんがいなくて、広くて、思い出が多すぎて

こんなの残酷すぎる。



「ねぇ、おじいちゃん…どうして。」


おじいちゃんが亡くなったのは、わたしが高校に入学したての時だった。

毎年たった2人だけど、にぎやかだったクリスマスは

高校に入ってから、街の明かりと反対で、闇の底へと落とされる。


私はまた一人ぼっちなんだ。



もう2時間もすれば聖なる夜、私が捨てられた日も終わる。


「お願い、サンタさん…私を…」


コンコン


不意に響いたその音は、締め切ったカーテンの奥から鳴った。


ベランダになにかがいる、不法侵入者、泥棒、殺人鬼。

嫌な想像で体が強張る。


すっと風が頬をかすめる。


わたし、窓の鍵…!

洗濯物を取り込んだ後、閉め忘れたことに気付く。

ゆっくりと、だけど確実に、人影が動く。

そしてカーテンがゆらりと動いた。


「ひっ、きゃあああああああ」

「うわぁあああああああああ」



叫び声が重なる。

…ん?重なる?



「え…?」

「びっくりした…心臓止まるかと思った…。」


赤い帽子、赤い上着、赤いズボン、大きな白い袋。

そして庭に見える、ソリとトナカイ。


胸に手を当て自分を落ち着かせているソイツは、

どこからどう見ても…


「サンタさん…?」

「へ?あ、はい、はじめまして!」


ヘヘッ、と照れ笑いをしてハニかむ。


「…いや、サンタさんってもっとひげもじゃのおじいさんだったよね。」


自分に確認するようにつぶやいたつもりだったが、

聞こえたみたいだ。


「あ、僕まだ見習いなんで、若いから、ひげとか生えてないんです!」


見習い…?

サンタっていろいろあるんだ…。



「っていや、そうじゃなくて!!」


これって、つまりサンタのコスプレした若い男性なわけで、

一人暮らしの女の家なわけで、

その家に許可もなく勝手にあがりこんでるわけで…



「犯罪じゃん!!!!!」

「うわぁああ、またびっくりした…!」


とりあえず、警察に電話しなきゃ…。

どうしよう、私なにされるんだろう…。

お金を盗られるとか?それとも、殺されるの…?




「ちょっとちょっと!なにしてるの!」

「うわぁ!ごめんなさい、殺さないでください!!」


腕つかまれた、どうしよう、どうしよう。


助けて、おじいちゃん…!



「…へ?殺す?なんで?」

「だって、あなた侵入者で…だから…。」

「侵入者じゃなくてサンタクロースなんだけど。」

「そうだけど、そういう設定で、だから…。」


どうしよう、どうしよう。



「…とりあえず落ち着いて?」



そういって私の腕を離すと、腰を落として私の顔を覗き込む。


「僕は、君にプレゼントを届けに来たんだよ。」


初めてちゃんと見た彼の顔は、
どこかで懐かしいような、そんな笑顔だった。




「落ち着いた?」

「はい…なんか、すみません。」

「じゃあ、話すね。僕は君たちのよく知るサンタクロース。」


そういって彼は少しずつ優しい口調で語りだした。


見習いだからまだ若くてひげは生えてないけど、立派なサンタで

見習いは、毎年誰か1人へプレゼントをあげに行かなければいけないこと

そこで彼が私を選んだこと。



「わかった?」

「いちお…。」


非現実的なサンタクロースを納得してしまったことなんて

自分でも不思議で仕方がない。



「そこで、君の望むものを僕があげなきゃいけない、ってわけ。」

「じゃあ、生活費を。」

「…あ、いや、そうじゃなくてね。」


切実なる願いは少し苦笑いのサンタにバッサリと斬られてしまった。


「プレゼントは対象者を観察する期間中に見習いが予測して用意するんだ。」

「…?」

「えっと、つまり、何がもらえるかは見習いの予想が当たるかどうか!」



そういって自信満々に白い大きな袋を運んでくる。

今にも中身が飛び出しそうなその袋は丸い形状を保ったままで

中には球体の何かが入っていることを思わせる。



「で、あなたは何を用意してくれたの?」

「…君が、一番、ほしいもの、だよ。」


少しずつサンタの呼吸が荒くなり、顔色が悪くなる。


「…ねぇ、大丈夫?」

「うん、これで、いいんだ。」


その様子は大丈夫にはとても見えない。

息苦しそうに肩で呼吸をする。




「…サンタじゃないんでしょ。」


気づけばそういっていた。

サンタは苦しそうな姿のままこちらを見て驚く。


「今救急車呼ぶから、待ってて。」

「ダメだ。」

「なんで…。」


サンタは最後の力を振り絞るかのように言った。


「僕はサンタクロースなんだから。」



そうしてフッとその場から消えた。

気づけば、庭のソリもトナカイもない。

あんなに大きかった袋も今では形跡すらない。


突然現れて、突然消えた。


時計の針は0時を過ぎていた。






「広菜ー。」

「茜ちゃんあけおめー!」


新学期初日。


「いやー久々だねー!あ、髪染めた?」

「アンタは久々に会っても変わらないね。」


そう言って茜ちゃんは笑った。


うん、変わらない。

あのクリスマスの夜の後何かが起こることはなかった。

自称サンタクロースはまるで存在すらしていなかったかのようで

私の中でもあの日のことは夢だった、ということで完結した。




「広菜、今日バイト?」

「いや、休みだよー。なんで?」

「いい感じのカフェ見つけたんだよ、行かない?」

「行くー!」


一人暮らしの私は生活費のため、基本的に学校の後はバイトがある。

なので放課後遊ぶみたいなことはあんまりしたことがなかった。




放課後。


「ここがそのカフェ。」

「オ、オシャレだ…!」

「はい、リアクション恥ずかしいからね、入ろうね。」



カランカラン

外装同様オシャレな店内には、学生、OLなど女性客が多くいた。



「ご注文はお決まりでしょうか?」


どこか懐かしい声。


「この店員さんイケメンじゃない?」


茜ちゃんが小声で私に言う。


「…そうかな?ただの不法侵入者じゃない?」

「え?」


フッと笑う彼の笑顔はあの日と同じで、


「でも、これからは君を一人にはしないよ?」

「当たり前でしょ…それがプレゼントなんだから。」


だから、あの日できなかった分、私も笑った。




「サンタクロース」

サンタクロースとしての能力を使い人々に幸せを配る人。
人間がよく知る姿は男性の老人だが、それ以外にもいる。
通常叶えられない望みを、サンタクロースとしての
能力と地位を失う代わりに、叶えることができる。
その際その場から跡形もなく消えさるという。






「お願い、サンタさん…わたしを…一人ぼっちにしないで…。」



















ライセンス

  • 非営利目的に限ります
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聖なる夜と独りの少女

サンタクロースの最後をあなたは知っていますか?

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閲覧数:26

投稿日:2012/12/01 17:24:32

文字数:4,505文字

カテゴリ:小説

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