俺は、俺の意味を信じたい。
 だから、俺は、この剣を振るう。
 それが例え、俺をこの世に生み出した、貴方であっても。
 それで、己の意味が見い出せるなら!
 俺は、黒奏刀の柄を握り、天空へと振りかざした。
 黒き刀身が、朝日が照らす陽光を煌めかせ、黄金の軌跡を描く。
 そして、真空を切り裂いた。
 「はぁッ!」
 刃の切っ先は、網走智貴の胸に吸い込まれる。
 しかしその瞬間、網走の握る白銀の刃が俺の刃を受け流し、俺の体を大きく仰け反らせた。
 「これでどうだ!!」
 その叫びとともに、彼は体全体で刀身を振りかぶり、次の瞬間、光を超える速さの刃が俺に振り下ろされた。
 俺は間一髪でその斬撃を受け止め、転じてその刃を押し返した。
 だが彼の体は一歩も後退することなく、むしろその反動から転じて、一瞬で俺の懐へと潜り込んだ。
 そして自分の懐に忍ばせた刃を一気に抜き放った。
 「でゃあああッ!!!」
 その光の刃が折れの体に触れる瞬間、俺は意を決し、彼の頭上へと跳躍した。
 一瞬垣間見えたその隙を逃すことなく、彼の頭上より刃の切っ先を振り下ろす。
 「その程度で!!」
 だが、その斬撃も彼の刀身が受け流され、俺が地面に着地した瞬間には、すでに背後をとられていた。
 「覚悟せいッ!!」
 淡い光を放つ彼の刀身が、渾身の力で俺に振り下ろされた。
 俺は無心の内に黒奏刀を抜き放ち、その刃を弾き返した。
 刃と刃が、刹那すら超える速度でぶつかり合い、俺と彼の合間に飛沫のごとき火花を撒き散らした。
 その衝撃で大きく後退した俺は、次の瞬間には、攻撃の体勢に入り、再び刀を握る腕に渾身の力を込めた。
 同時に、彼もスーツの腕部を膨張させ、増幅された最大限の力をブレードに込めていた。
 「いやあああッ!!!」
 「でやあああッ!!!」
 刀身は空中で激しく衝突し、炎の飛沫を上げる。
 刃同士が離れた次の刹那には、俺達は再び刃を振るう。
 幾つもの斬撃が俺と彼の前で火花を撒き散らし、波打つように周囲へ放たれる衝撃波が、砂浜を、鳥を、海原を騒がせる。
 熾烈にぶつかり合う斬撃の合間に一瞬の隙を見出した俺は、彼の刃を下へ払いのけ、同時にがら空きとなった顔面に刃を突き立てた。
 即座に打ち払われたが、ヘルメットの中に、僅かに刃が潜り込んだ手応えがあった。
 「うゥッ!!」 
 網走はヘルメットの顔面を押さえながら、数歩退いた。
 顔に刃が達したのだ。
 「今だ!!」
 俺は刀身を脇腹に引込み、そして彼の胸元へ向けて刃の切っ先を突き放った。
 「ハァッ!!!」
 その時、彼の全身から凄まじい衝撃波が放たれ、俺を体ごと押し返した。
 「流石だなデル。」
 網走は一度、刀身を鞘に納めると、亀裂の入ったヘルメットをもぎ取り、海に投げ捨てた。
 「何・・・・・・・?!」
 俺の時間が、意識が、一瞬停止した。
 驚愕の余り、俺はの意識からすべてが抜け落ちていた。
 ヘルメットの中から現れたその顔は・・・・・・。
 「俺が・・・・・・いる・・・・・・?」 
 その顔は、朝日に輝く銀髪に、赤い瞳、輪郭までも、正しく俺そのものだったのだ。
 ただ違いがあるとすれば、砂浜に吹く風になびくほど長い髪と、荘厳な響きのある声だけだ。
 「どうした。驚いたのか?」
 俺の顔が、俺の意志に関係なく笑みを浮かべた。
 「何故だ?!俺の見た画像とは違う!!」
 「私は過去、情報の錯乱をするために、自分の顔だと偽った画像を公開したことがある。お前が見たものは、ただの合成だ。」
 「・・・・・・!」
 俺はもはや、戦うことすら忘れていた。
 「デル。私が何故自分と同じ顔のアンドロイドを作り出したか、分かるか。」
 「いや・・・・・・。」
 「この時のためだよ。」
 「何?!」
 「お前を造る時私は既に予測していた。お前とはいずれ、こうして相まみえる日が来るとな。・・・・・・お前は私の息子であり、コピーだ。だが今、私にもお前にも、そんな区別はない!!」
 網走は再び刀身を抜き、その刃先を俺に向けた。
 「相続者は相応の力量がなければならん。そのために、私はお前という第二の自分を造り、こうして刃を交える時を待っていた!自分を超えたとき、私は相続者の資格を得られる!!」
 「ふざけるな!!お前は自分に酔っているだけだ!!ストラトスフィアは沈んだ!システムは停止した!もはやお前に味方する者は誰もいない!!いい加減に目を覚ませ!!!」
 「いいかデル!この世にオリジナルは一人しか要らん!!例え相続者の道が途絶えようとも、同じ顔、同じ運命を持つ我々は、こうして殺し合う運命にあるのだ!!!」
 網走がブレードの柄に両手を添えると、その体を淡い光が包み込み、次の瞬間、衝撃波と共に、竜巻のごとく砂塵が舞い上がった。
 「デル。ここからが本当の勝負だ!!」
 網走の刀身から光と風が巻き起こっていく。
 「避けられるか!!!」
 そして水平に刃を薙ぎ払うと、刀身に纏う光が空を駆ける刃の風となって俺に迫った。
 どうにかその風を打ち返したが、彼の刀身からは続けて風の刃が放たれる。
 俺は無造作にその風を振り払い、網走に向け、俺も刃を薙ぎ払う。
 その時、その刀身から雷鳴が響き、迸る電流が網走の体を貫いた。
 これは・・・・・・!?
 「ぐわぁあああッ!!!」
 悲痛な叫びを上げ、彼が跪く。
 「今だ!!!」
 この好機を逃すまいと、俺は無防備な網走に斬りかかった。
 刀身に、電撃を帯びて。
 「効いたぞ、デル!!」
 叫びとともに網走は立ち上がり、風を帯びた刃で俺の斬撃を打ち返した。
 その瞬間、全身を凄まじい風圧が、スーツの所々を引き裂き、俺を吹き飛ばした。 
 「がァッ!!!」
 俺は砂の上に転がった体を直ちに立て直し、網走の姿を捉えると、静かに立ち上がり、深呼吸した。
 黒奏刀を静かに構えながら、その輝く刀身に、神経を集中させる。
 そのとき、それまでブレードの形を成していた刀身が、迸る電流に包み込まれ、遂に雷そのものとなったのだ。
 網走もまた、俺と同じように刀を振り上げ、その形を蒼白の渦巻く風へと変貌させていた。
 俺も、彼も、全身にその力を纏い、最後の一撃を繰り出す瞬間を見出そうとしている。
 おそらく、次の一撃が、俺達の決着を決めるだろう。
 俺と網走の姿勢が停止したとき、同時に、周囲の時間も停止していた。
 止まって、見える。
 風も、海も、舞う鳥達も、すべて、止まって見える。
 そして俺と彼は、止まった時間の中から、一閃を放つ瞬間を見出した。
 これで、すべてが決まる。
 「この一撃で!!!!!」
 「我がすべてを賭ける!!!!!」
 互いの怒号と刃が、貫く嵐と轟く雷鳴となり、互いの体を突き抜けた。
 一瞬も、刹那をも超越する、神速の斬撃。 
 お互いの位置を入れ替わるようにしてすり抜けた瞬間、俺は全身に耐え難い激痛と疲労を感じ、思わずその場に跪いた。
 「ぐはぁッ!!」
 同時に、背後で網走の悲鳴が聞こえた。
 ・・・・・・・。
 勝っ・・・・・・た・・・・・・?
 俺は刀身を鞘に納め、それを杖にしながら、網走のもとへ歩み寄った。
 彼は胴体を切り裂かれ、砂の上に白い液体を流していた。
 「デルよ・・・・・・よくやった・・・・・・。」
 まだ意識を保つ彼は、うっすらと笑を浮かべながら、掠れた声を出した。 
 「これで・・・・・・新世界の相続者は、お前・・・・・・だ。」
 「俺は相続者などにはならない。俺は、俺自身の意志で生きて行く。例えシステムで縛られようとも、俺は俺の意志を貫いてやる。」
 すると彼は、にやりと口元を歪めた。
 「そうか・・・・・・それも・・・・・・良い・・・・・・良いものだな・・・・・・。」
 彼は震える手で、自分が手にしていたブレードを差し出した。
 かすかな風が、刀身の中を渦巻いている気がする。
 「これを・・・・・・離すな・・・・・・!」
 「・・・・・・何故これを。」
 「この刀の名は美振・・・・・・消滅した西日本の、とある企業の開発したものだ。いいか・・・・・・これには、過去の西日本のデータが隠されている。お前は・・・・・・これで・・・・・・。」
 そう言いかけたとき、彼は口から白い液体を吐き出した。 
 「何を行っている?俺に必要なものか!」 
 「私とお前は、同じだからだ・・・・・・デルよ・・・・・・忘れてはならなん・・・・・・お前にはまだ、この世に生まれ持った、終生の使命が残っているだろう。これで・・・・・・道を開き、自分を見いだせ。人々を束ね、自由と、権利と、平和を・・・・・・・もたらせ・・・・・・!!」
 その言葉が途絶えた瞬間、彼の体から、最後の力が消えていった。
 壮絶な闘争を繰り広げた砂浜は静寂に包まれた。海鳥の鳴き声と、砂浜に打ち付ける波の音だけが、耳に残る。
 いつの間にか朝日は海から離れ、澄み切った青空からこの場所を照らしている。   これで・・・・・・終わったのだろうか。
 ここまで戦い抜き、最後の決着すらも終えたにもかかわらず、俺はまだ。自分の意味を得たという実感がわかない。
 ここまで傷つき、人を殺めてきたにもかかわらず・・・・・・結局俺は、何も分からないままだ。
 何故・・・・・・一体何故・・・・・・。
 「終わったようだな。」
 その時、背後から聞き覚えのある声がかけられた。
 振り返ると、そこにはごく普通の私服姿の重音テトと、制服姿のテッドがいた。
 テトはまだ傷が感知していないらしく、白いシャツの所々に血が滲んでいる。
 「これでクリプトンの勝ち。新しい時代にも興味があったが、私はただ、テッドといられればいい・・・・・・。」
 そういいながら、彼女は愛しそうにテッドの腕を抱きしめた。
 「デル・・・・・・約束は守ってくれたな。」
 テッドは言いようの無い、開き直ったような表情だった。
 「ああ・・・・・・。」
 「さてと。これで俺達は自由になった・・・・・・これでようやく、二人で静かに暮らせる。・・・・・・さあ行こう。お母さん。」
 「ああ・・・・・・。」
 二人は手を取り合って、砂浜の向こうにある堤防に向かって、歩き出した。
 「テッド!」
 俺は、その背を呼び止めた。
 彼と彼女は、穏やかな顔で振り返る。
 「どこへ行く・・・・・・これからどうするつもりだ。」
 ここで逃げたとしても、二人は追われる身となるだろう。
 むしろここで保護されたほうが、それよりはいい。
 「私達は・・・・・・安住の地が欲しい。静かな場所がいいな。不自由があってもいい。これから、それを探しに行く。」
 と、テトが言った。
 「見つかるか?」
 「ああ。見つかるとも。必ずな。」
 そう答える彼女の笑顔が、陽光に映え、美しく思った。
 「さぁ、テッド。騒がしいのが来る前に、ここから退散しよう。背負ってくれ!」
 「うん!!」
 テッドはテトの体を背負うと、次の瞬間、猛烈に砂塵を巻き上げ、驚くべき速さで堤防の上に疾走していった。
 「デル!さらばだ!!!」
 「じゃあな、デルー!!!」
 彼らの声が聞こえると同時に、その姿は、完全に消えていた。
 その時俺は、はっとワラの事を思い出した。
 周囲を見渡すと、砂の上に横たわる彼女の姿が見えた。
 「ワラ!!」
 俺はすぐさま彼女の元に駆け寄り、呼びかけた。
 彼女はまだ意識を保ち続けていたが、それももはや、風前の灯だとわかった。
 「・・・・・・終わっ・・・・・・た・・・・・・?」
 「ああ・・・・・・終わったんだ。これで皆のところに帰れる!!」
 「そう・・・・・・良かった・・・・・・・。」
 彼女は弱々しく体を起こし、そして、俺に抱きついた。
 「ワラ?」
 「デル・・・・・・あのね・・・・・・。」
 「なんだ?」
 「・・・・・・き・・・・・・だよ・・・・・・。」
 その時、ワラの言葉が途切れ、彼女の体から、力と体温が消えてゆくのがわかった。
 「ワラ・・・・・・ワラ!!!」
 呼びかけても、彼女は応えない。
 エネルギーが途絶えたか・・・・・・。 
 俺は彼女から砂を払い落とし、抱き上げた。
 『動くな!!』
 堤防の上から、拡声器越しの声が鳴り響いた。
 見ると、そこには数台のパトカーが並び、銃を構えた警官たちが近づいてくるところだった。
 その時俺はようやく、すべてが終わったことを理解した。
 これで、これでいい。
 俺は彼女抱えたまま微動だにせず、彼らが俺を包囲するのをただ待ち続けるだけだった・・・・・・。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

SUCCESSOR's OF JIHAD第八十話「THE RISING SUN」 

閲覧数:241

投稿日:2010/02/23 18:37:08

文字数:5,218文字

カテゴリ:小説

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