一、

わたしたちは 歌おう
歌っていよう しばらくは
回り出した風見鶏の 視線を追う

風の色は新しくて わたしたちをそっと揺らす
心は どこまでも 軽くて 風に乗る

わたしは がらんどうの風船として
知らない 風景に行きたい

二、

旅装は どれも 真新しいものにしよう
古びた想いでは 片手に収まるだけに

多くのものを 捨ててしまったので
眩むほど 出発の時は 明るく過ぎる

音楽は 未だ 鳴り止まないまま
わたしは 深く 澄んだ大気を 吸い込む
そして ほの暗い まどろみを 連れてゆく

三、

澱んだかなしみを 運ぶ列車だが
安らかな わたしの夢の世界も揺り運ぶ

青い 朝の風はどこまでも 薄く 遠く広がり
その中を 夢は 自由に泳ぐ 新鮮に 青く!

わたしよりも ずっと早く
ああ 夢は わたしの未知へと 行き着く
未知へ向かう 今も

……わたしは ささやく
こんども おまえ 夢よ 私を連れて行っておくれ
わたしの 思惟や勇気の 及ばぬ 遠くへ

四、

ゆわえて ことばを
ことばに うがって
さまよい うらやむ
わたしの ゆうれい
そらえがく かんしょうを
もだえながら おぼえながら
どこまでも
たわみつづける なみだ
そだちつづける なみだ
けしてしまえ

きらめく うろこと
しらない こうろを
おまえが つぶやく
おまえに はためく
おののいた ほうこうに
ひかれながら ねむりながら
どこまでも
うたいつづける かぜと
うたいつづける まひる
たえず さやかに きえていく
あるぺじおのように

五、

ひとふさの追憶が また 揺れるので
浅い眠りは 次々と流れてしまう

ぼんやりと あるいは はっきりと
みやった雲は どれも やさしい影を投げ
知らない景色に 細やかに文字を編むようだ

一一そういう風に 時はみな過ぎ去っていった

六、

わたしは 降り立った
やわらかな 眠気と いっとき止んだ歌と
たちまちに耳を包む また 新たな歌と

ほんの少し 崩れそうになる日々から 再び
洩れ出して 透き通る 音が
からだの底に 染み込んで
わたしの周りの 旅程の歌に 加わってゆく
ここには 暖かい空気と 輪唱

七、

ひだまりに ひとつぶ
ひからびた心を 雨が染める
あお空から降り来る 虹色の雨が

晴れた日に わたしは 傘をさしている
怪訝に 覗き込む人
散りゆく 光の硝子は わたしにしか 見えない
それは ひとつのいのちが 繋がっていくように
虹色降って去っていった
鈍色吸って膨らんで散った

八、

影をひとつぶ
吸って死んでしまいたいと思った
昼下がりに 眠り 月が笑うのを待つ

晴れた日に 木陰で まぶたを閉じている
鮮やかに 視界を 彩り
白い街に 色がつくのを 見届けながら 眠る
季節が 過ぎ去って また やってくるときに
報せるため 見せてくれる
虹色の 雨が 降っていた

九、

旅の果てにいたのは いつも
記憶の面影だ!
わたしが 求めていた未知は わたしの感動は
すべて わたしの中から産まれてきたのだった

風は 今も 耳打ちするのだ
その度に わたしは 一枚の細かな織布になって
ゆっくりと ほどけていく
その 一本一本が 繋がる先には
わたしが 生まれてくる前から 持っていたのだろう
いくつもの 原石が ぼんやりと 光っている

十、

夜 おまえはいつも
わたしを置いて 眠ってしまうのだった

月の光だけが ささやかに 街を彩る
星も 今は夜を想って 黙っている
窓際で 花が 呑んだ光を散らし
わたしは 傍らで眠るおまえを 見つめる

風の旅程は 歌に溢れて 果てしなく長かったろう
しかし 今 ごらん 夜は
その黒い腕を伸ばして
おまえを 抱きかかえているだろう 夢よ

そして おまえの手には 力強く
すっかり 折れて ぼろぼろの地図と
まっさらな 想いでのもとが 握られている

そして わたしは 澄んだ大気を 吸い込む
それが 満たす わたしの身体が
新たな歌を 歌う

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • 作者の氏名を表示して下さい

十篇の詩による「風の旅程」

tokekuru様に宛てて書いた詩です。

5/24 加筆、及び表記の修正

閲覧数:637

投稿日:2019/05/24 09:44:01

文字数:1,689文字

カテゴリ:歌詞

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