女が暗闇でひそひそとつぶやいている

「いやだこんなのいやだこんなのいやだこんなの・・・・」

その女は一人の男と同棲中である

気が優しい男だったのだが

今は虐待が激しく

出会ったばかりの優しい記憶は

それによって闇に葬られていた

そしていつも男は女を虐待した後

偽りの優しさで抱きしめていた

女はそれに気づかず

長い時を偽りで埋めていた

そう

少し前まで
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男がご飯を作っている

訳の分からない女の声の中で

「おい!出来たぞ!」

そう男が怒鳴るが

机には空の食器と盛り付けが綺麗な食器しかない

もう一つの食器には"声"という具材すら入っていなかった

女らしき影は動こうとしない

男は何事も無かったように食べ始める

ここまでは何もかもいつも通りだった

そう

少し前まで

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女はまだつぶやいている

「いやだこんなのいやだこんなのいやだこんなのいやだこんなの・・・・」

それは少し前まで続いていた

今は女に何か取り憑いているようだった

紅に塗られた人格の様になる

それでも女は黙って餌の臭いを感じるだけだった

もとより女の餌は無いのだから

女は何も腹立たしい感情とかが湧いてくる事はなかった

男は最後の晩餐を食べ終えた

女はいつも通り食器の片付けをやらされた
男はテレビを観てくつろいでいる

女は手にある物をかち割って目の前に紅い世界を描こうという気がしたが

何かしら怖くて実行しなかった

食器洗いはすぐに終わった

一人前の料理しかないから当然

そう思う女の深部には何も生まれなかった
そして

目が覚めた
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男は女に風呂を洗わせ

沸いたのでゆっくり入る

女はそれを見計らって

睡眠剤をたっぷり染み込ませたバスタオルを用意してあげた

女は悪魔の囁きを聴いた

「早ク殺セサモナクバオマエヲ地獄ニツレテイクゾ」

そして

男が風呂から出てくる

びしょびしょの己の体を

バスタオルで包み込んだ

地獄に堕ちるとは知らずに
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第一部ここまで

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

オリジナル小説第一部

オリジナル小説第一部です

閲覧数:36

投稿日:2010/03/05 19:25:46

文字数:1,101文字

カテゴリ:小説

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