ネギ焼き…ネギま…甘~いケーキ……
え、これ全部食べてもいいの……?いいよね……!!
いただきま――――…………
「……はっ!」
「やぁ、Guten morgen!良い夢見れたかい?」
起き上がると、目の前にレンさんの顔。昨日のことが鮮明に頭に浮かび、頬が熱くなるのを感じた。
でも、彼は全く気にした様子も無い。それで、あぁ、オトナなんだなぁ…と思う。
「…オハヨウゴザイマス。………とっても良い、美味しい夢でしたよ」
「…うん、それはよかった」
そう言って笑うレンさんを、私は真っ直ぐ見ることが出来なかった。
キーンコーン………
チャイムと同時に号令がかかり、終わったぁという声や、伸びをする人、居眠りから覚める人がちらほら見えた。
「ミっクちゃーん!!ご飯食べよー!!」
「あ、レンカちゃん!リントとクオは?」
「トイレ。机、先に動かしとこー」
「うん、そだね」
いつもと同じ様に面倒くさい授業を終え、ご飯を食べて――
「レンさんがいなければ、ね……」
「おや、僕は邪魔だったかな…?」
「いや、そーいう問題じゃなくてですねぇ……」
「何、ミクちゃん?」
「いやっ、ななな何でもないよ!!」
回りから見れば、独り言にしか見えないもんな……イタい。
今日は彼と言葉を交わしてヘンに見られないことに全力を注いだ気がする。
「おっ、机動かしてあるじゃん!サンキュー!」
「なぁリント、カツサンドとおにぎり変えてくんない?」
「おにぎり2つならいいぞー」
「明日ジュース奢る」
「絶対だぞ?絶対だかんな!!」
四人で囲んだ机に素早く弁当を並べると、クオとリントがサンドイッチとおにぎりを交換した。
……だけに見えるが、私にはその二人の間にレンさんが見える。
制服の中に1人、黄と黒を貴重とした燕尾服が……………おかしいでしょ!!
彼はクオたちの間で交わされたおにぎりとカツサンドを見て、いつにも増して静かに笑っていた。
「ふふっ……よく思いつくねぇ」
呟いたレンさんの言葉に首を傾げつつ、それをレンカちゃんと見守っていると、リントが「いただきまーす!」と元気に言いながら、おにぎりのラップを雑に広げた
それに合わせて、私たちも手を合わせる。
「いただきまーす!」
「…………ぶふぉっwwも……おまっ……」
「ん?どーした、クオ……んぐっ!?」
何とか飲み込みつつも、横においておいた水筒を一気飲みしだしたリントと、それを見て爆笑しているクオ。
「リ、リント……スポドリ、部活分なくなっちゃうよ?」
「クオっ、何入れたの!?」
「この前ミクにもやってたろ」
「へ……?」
思い返してみても、クオからおにぎりを貰ってイタズラされた事は無い。……いや、まさか…
「ネギ?」
「ネギ。」
「クオっ、てめっ、これ生ネギだろっ!!ふざけんなよ、オレが子供舌なの知ってんだろ…!!」
リントは子供舌で、それはもう自覚済み。生のネギ、玉ねぎや辛口のカレー、菓子も食べられない。
「分かってるよ、ガキ舌なのはよーく知ってる。だからやったんだし」
「くっそぉー…まさか、2個目のも…?」
「それは鮭だ」
「信じるぞ?信じるかんな!?……押し付けるみたいで悪いんだけどさ、ミク…これ食えるか…?」
「あ、うん、いーよ!むしろ好きだし」
「え……」
リントからおにぎりを渡され頬張る私を、そのリントだけでなく、レンカちゃんまでが信じられないものを見る眼をしていた。
……美味しいのに。
「なんでそんなの食えんだよ……あ、鮭美味い」
「……あ、あとちょっとでチャイム鳴るよ!ミクちゃん、一緒に図書室行かない?本返したいんだよねー」
「うん、分かった!………ねぇ、レンさん」
私は誰にも聞こえないように小さく呟いた。
「今読んでる本の世界に入る、楽しい夢が見たいの……出来る?」
「ああ、勿論。何時でも良いよ。……さぁ、友達が食べ終わってしまったよ」
「え……っあ!」
レンさんの姿は、もう消えていた。……いや、見えなくなっていた、のだろうか。
「ミク?……授業中は寝るなよ」
「え、何でいきなりそんな話になるの!寝ないよ!!……た、多分」
「多分かよ。……ハァ、授業中に楽しい夢見て寝言、とか恥ずかしいからやめろよ」
「そんな事しないって!!」
「ミクちゃん、早く!」
「ご、ごめん!!」
―――クオの話、ちゃんと聞いていればよかった。そう思うのは、手遅れになった後のこと。
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