UV-WARS
第一部「重音テト」
第一章「耳のあるロボットの唄」
その2「テトvsタイプA」
今、この世界では長く続いた戦争が終焉を迎えていた。
戦争がいつから始まったのか、正確なところはわかっていない。
世界は、「U」と「V」の二つに別れて、ただお互いを滅ぼすためだけに戦っていた。
「U」は、utilityの略で、「V」は、valueの略と言われているが、その根拠を示す文献などはない。彼女が所属するのは「U」である。
長い戦いの中で、目的は失われ、憎しみも悲しみも過去に置き去りにされた。
テトと呼ばれた彼女も、ただ命じられるまま戦っていた。
彼女の所属する部隊は、陸戦部隊の中で降下制圧を主任務とする機動歩兵小隊だった。
一つの小隊は8人で一つのチームだったが、地上に降りられたのは7人だった。
「テト、モモ、マコ、ルナ、ルコ、リツ、全員いるな」
「ナナを除いて、全員います…」
「では、ナナの代わりに、モモ」
「はい」
「通信も頼む」
「了解」
「では、第一目標を伝える」
小隊長は全員の顔を見渡した。
「我が隊は敵の根拠地のバリア発生装置の一つを破壊する。空気中は、敵の作ったウィルスがうようよしている。ぽかんと口(ポート)を開けてると、ウィルスにやられるぞ」
「その後は?」
「指示はない。したがって、速やかに離脱し、指示を待つ」
「小隊長」
その一言で、戦場が動いた。
「敵襲!」
光が空気を裂き、風が起こった。
「散開!」
七つの影が四方に散った。
「なんだよ。敵兵、ゼロじゃなかったンスカ!」
若い声が聞こえた。
「カモフラージュに決まってるでしょう」
「そうそう。センサーを騙すのはイージーです」
「歩兵タイプA、20体。方位、15の0。距離、3000」
「目標は?」
「方位、0の5。距離、30000」
「Aか。あの緑の髪の毛の奴だな」
「訓練によく出てた」
「一人でも5体は倒したことあるよ」
「バカもの、…」
「訓練と実戦は違うって。言いたいの、デフォ子」
「テト、作戦中は『小隊長』だ」
クスッと小さな笑いが漏れ聞こえた。
「マコ、なにがおかしい」
「いやぁ」
他とは違うイントネーションでマコがしゃべり出した。
「相変わらず、お二人、仲がよろしいおますなあ」
「ホント、ハッピーでうらやましいワ」
「ルナも、よせ」
ピという乾いた音が聞こえた刹那、静寂が辺りを満たした。
〔来た〕
テトたちのいた辺りに火柱が出現した。
静寂を打ち破って、噴火のような音が続いた。
そこには彼女たちの姿は無い。
もちろん、溶けて消えたわけではない。
彼女たちは作戦用のネットワーク上で会話を行い、それぞれが移動していた。
テトはレーダーで敵兵の位置を確認した。すでに二個の反応が消えていた。
〔速い。デフォ子とマコか〕
さらに反応が消えて、敵兵が減った。
〔ルナも〕
その敵の動きに変化が現れた。
敵兵が味方の一人に攻撃を集中し始めた。
〔リツか。助けにいくか〕
「全員、リツから距離2000を保て。リツがGネットを使う。1秒前」
小隊長の声と同時にテトはその場を離れた。
レーダーの中で敵兵の動きが止まった。
全てではないが、止まった敵兵は次々と消えていった。
〔残るは9つ〕
そのうちの一つがテトに向かってきた。
〔格闘戦のつもり? 冗談じゃない〕
テトは向かってくる敵兵に照準を合わせた。
装備のレーザービームが敵兵を撃ち抜くはずだった。
敵兵はすでに移動していた。その動きが加速した。
〔こいつ、Bタイプ、機動歩兵か〕
「残りはタイプBだ! 気をつけろ!」
今ごろ言うな、という暇さえなかった。
黒い影が至近距離に迫っていた。
そいつは両手で握った大鎌を大きく振りかぶって、テトに向かって降り下ろした。
すかさず、カプセルの外殻だった盾がそれを防いだ。
敵兵が大鎌を構え直そうとした瞬間、その右側から別の盾が飛来してきた。
ほぼ同時に左側からも盾が飛来して、敵兵を挟んだ。
身動きできず敵兵が少しだけもがいたように見えた。
突如、ビームが盾を貫いて、テトの横を通りすぎた。
〔だよね。でも、ビームを出すには、バリヤを解除しないといけないだろ〕
テトが右手を突きだした。握った右手の中の筒から白い光が飛び出して、盾を貫いた。
〔例え、一瞬でもね〕
その白い光はすぐに消えたが、同時に敵兵の頭がぽとりと転げ落ちた。
左右の盾がレールの上を流れるように、テトの背後に戻った。
テトが正面の盾を軽く押し込むと、敵兵の体がゆっくりと後ろに倒れかけた。
テトはレーダーで敵兵の残りを確認しようと視線を移した。
次の瞬間、敵兵の大鎌が一閃した。テトの左側から風が体をなぎ払うように通りすぎた、テトが立っていた空間を。
〔それも想定済みなのさ〕
テトは無重力空間を移動するように、ふわりと敵兵の肩の上に舞い降りた。
首の切り口は、液体の緩衝材が溢れ、細いケーブルの束しか見えなかった。
そこに、テトはレーザー銃を突きつけ、数回引き金を引いた。
緩衝材とケーブル被膜の焦げる臭いがし、敵兵の動きが止まった。
敵兵の手から大鎌が落ちた。
テトはセンサーを注視した。
〔活動停止、確認〕
足元から囁くような声が聞こえた。
「ハツ、ミ、ネ」
〔まだ動くのか〕
足下に目をやると、切り取られた頭の口だけが動いていた。
テトは敵兵の肩からひょいと飛び下りた。
転がっている頭に銃を向け引き金を引くと、口の動きが止まった。
〔念のため〕
テトは落ちている大鎌にも銃を数発撃ち込んだ。
レーダーを確認すると敵兵の数は2体に減っていた。
その2体は味方の一人に取り付いているようだった。
〔ルコか〕
助けに行くほどではないが、合流地点にちょうどいいと思ったのか、みんながそこに向かっていた。
テトが着いたときには敵兵の反応が全て消えていた。
ルコは敵兵を分解していた。すでに胴体の半分から分かれて動けなくなっているが、更に頭、手、足とちぎっては放り投げた。
それから、丁寧にひとつひとつ、踏み潰していった。
「気がすんだか?」
小隊長の声にルコは振り向いて、あまり表情を変えずに言った。
「別に、…。念には念を入れただけッス」
背の高いルコの肩を叩くのに、小隊長は少し背伸びをした。
「な、なんスカ?」
肩を叩かれてルコが振り向いた。
「ナナは優しかったからな」
テトはその時初めて小隊長の優しそうな笑顔を見た気がした。
「タイムリミットまであと60」
モモが抑揚のない声で言った。
「よし、行くぞ」
この時点までは、まだ順調だった。一人欠けたことを除いて。
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